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Knight in shining armor







ことはなまえと銀二と赤木がなにとはなしに集まって酒を楽しんでいた時に起こった

「えーっ、女将さんお婿さんもらったんですか!?」
「ああ、なまえは知らなかったのか」
「知らないですよそんなの〜」
「クク…何でも結構な資産家らしいな」
「そうだったんだ…」

酒の入ったグラスを回しながらなまえは女将の笑う姿を思い浮かべた
女将とは、なまえが銀二や赤木につれてってもらう料亭の女将である
気立てよく、なまえの顔も覚えたらしく、
店に訪れるとはんなりと柔らかい笑みをくれるのだった

「ふふ…そっかぁ〜」
「なんだ?嬉しそうだな」
「ふへ…だってあの女将さん、器量よしだから、きっと素敵な人と幸せになってるんだろうなーって」
「そうだな…ちょっとせっかちだけどな」
「ハハ、違いねえ」
「…いいなあ…」
「…」

グラスを覗きながら小さく零した呟きを、銀二は黙って聞いていた

「今度祝いの一つでも送ってやるか」
「あっいいですね!ていうか今から行きません?まだ早いし」
「行ってみるか?途中で手土産拵えねえと」
「あー…そうだな、また今度な」
「え…?」

なまえと銀二が楽しそうに語る中、赤木は笑みを崩さないまま先送りの意を述べた
不思議そうな顔のなまえに、何か思い当たる銀二…

「何でですか?なんかこの後ご用が?」
「あーまあそんなとこかな」
「お前またかよ…最近いつもだな」
「そう妬いてくれるな」
「??」

事情を知らないなまえは銀二と赤木の顔を見比べる
銀二は観念したようにため息をついてなまえを見ると一言赤木を指差して言った


「デートだと」





場所変わって、例の料亭
2人が通された部屋に自ら出向いた女将になまえが両手いっぱいの色鮮やかな花束と、
銀二が和服に合う様なきらびやかな装飾の髪飾りをそれぞれ手渡した
女将は予想外の贈り物に涙ぐむほど喜んで幸せそうに笑った
髪飾りをなまえが選んだというと、なまえさんもどうぞ、いい人と幸せにねと返した
なまえはその言葉に顔が歪みそうになるのをこらえて女将を笑顔で祝った

心温まる空気は、女将が部屋からでてしばらくするとすぐになくなってしまった

「女将さん嬉しそうだったなあ…」
「ああ…」
「…」
「…」
「…女将さんには白百合がよく似合いましたね」
「ああ…」
「…」
「…」
「…幸せにね、って言われちゃった、へへ」
「ああ…」
「…」
「…」
「…」
「なまえ」
「…」
「…フフ、泣いちまえ」
「!」

なまえが顔をあげると、銀二の優しい笑みが涙で歪んだ
なまえは赤木に恋していた
いつからかはなまえにもわからなかったが、毎日赤木のことを考えていた




「デートだと」

この銀二の一言になまえは心臓を鷲掴みにされた心地がした

「またお前はそういう言い方…」
「はーっ、赤木様はお忙しいねぇ」
「クク、わりーな、今度埋め合わせはするよ
な、なまえ」

名前を呼ばれて、ようやく我にかえるが心臓はまだ正常に戻ってくれていない

「んもーっ赤木さん嫌い!赤木さんのばか!もう誘ってあげません!」
「おいおい、手厳しいな」

寂しいこと言うなよ、と笑う赤木に、なまえは半分本気をまぜた誤魔化しがきいたと安心した
だがそれは銀二にはお見通しだった

「クク、馬鹿だな…」
「うわああん、私馬鹿だもん…」
「ハハハ…俺が言うまでも無かったか」
「ううぅ、どうせ銀さん、うぐ、全部知ってたんでしょ!」
「…まぁな」
「裏切り者っ…!」
「なんだそりゃ」
「うええぇん鬼畜銀王…!ドSフィクサー…!」

わけもわからず喚くなまえにハハハ、と笑いを零しながら背中をぽんぽん叩いてやる銀二

「ううう、うぅ…私は世界一可哀相なモ女だあぁ…」
「おいおい…(もじょ?)」
「だって銀さん!ぐす、よく考えて!
私失恋した直後に結婚祝いして…
これ何の拷問…!?」

私が一体何をしたって言うんだあー!と泣き崩れるなまえに、
銀二は確かに…と頬をかいた

「くそう…頑張ったな私、よく泣かなかったぞ」
「うん…頑張ったな」

おいで、と手招く銀二になまえが大人しく寄り添うと、
優しく肩を抱かれ、自然となまえは銀二の肩にもたれた

「今日はもちろん…これまでよく頑張ったな」
「…」
「お前が少しずつ変わってくの、見るのが楽しくてな」
「…」
「恋してるお前、可愛かったよ
…だから言い出せなくてな、悪かったよ」
「…」

銀二の落ち着いた声と、トン、トン…と子供をあやすように肩を叩く大きな手に、
なまえはどこか安心した
それから少し銀二の方を向いた

「ね、銀さん」
「ん?」
「私変わりました…?」
「…ああ」
「どんなふうに?」
「…そうだな、大人になったよ」
「ほんとう?」
「ああ」
「…ふーん
…ふふ、じゃあいっか」

銀二の人差し指の背が、なまえの目尻から滴を拭った

銀二はなまえよりも前に失恋していた
何度も『俺じゃだめなのか』とか、『俺を見ろ』と喉まででかかった
『綺麗になった』と言ってやりたかったが
なまえを困らせて信頼を壊したくなかった
目尻に残り涙を浮かべながらもにへ、と笑うなまえ

「失恋したときに銀さんが一緒にいてくれて良かった」
「は…」
「そうじゃなかったら私今頃一人で馬鹿みたいに飲み歩いてねー、
一人でカラオケ行ってオールだってしましたよ、多分」
「クク…ハハ、そりゃあ困るな」
「それで、新宿ら辺にナンパされに行くの」
「おいおい、ったくお前は…」
「でも今日は銀さんの海老で我慢してあげます」
「そうか、ありがとよ」

そう言いつつ自分の皿からひょいと海老を箸でつまんで瞬く間に口へ運ぶ銀二

「あああ!食べたああぁ!」
「ククク、残念」
「せこー!!海老一つくらいいいじゃないですか!」
「なんだ、海老が欲しかったのか、そりゃあ知らなかった」
「こしゃくな…!じゃあ茶碗蒸しでいいです」
「ハハハ!敵わねぇな、ほら」
「え、あ、わーいありがとうございます!」
「しかし食えんのかそんなに」
「お礼に銀さんに味噌あんかけをあげます」
「はいはい…」

いつになったら好き嫌いなくなるのかね…
とぼやきつつも料理をつつく銀二は
さっきまでわんわん泣いていたなまえと同じ笑顔だった








オマケ


二年後…


「よぉ銀二」
「赤木…」

新宿のイルミネーションが賑やかなメインストリートから一本入った街頭で
赤木はよう、と軽く手をあげた

「何してんだこんなとこで」
「お前こそ」
「わかった、なまえだろ」
「…だろうと思った。わかってんなら聞くな」
「クク…いいじゃねえか、会話はキャッチボールだろ」
「お前…投げっ放しだぞ」
「ハハ…それにしても…やっとかよ。この間まだくっついてなかったのには呆れたね」
「…悪かったな」
「クク…裏で生きてると遠回り癖がつくのかね」
「チッ…楽しみやがって」
「あ、いたっ銀さーん!遅くなって…て赤木さん!」
「おう、来たか」
「よ、なまえ。久し振り」
「お久し振りです!お二人でいたんですか?」
「いや、さっき偶然通り掛かってな」
「遅かったな、なんかあったのか?」
「いや、ちょっと…タチの悪いキャッチにひっかかって…」
「おいおい…どうせまたぽやーっと歩いてたんだろ」
「失礼ですね!今日はヒール高いからキビキビですよ!」
「あっそ…」
「じゃあ俺は失礼するかな」
「あれっ、行っちゃうんですか?久し振りなのにー」
「いや、邪魔者はさっさと去るさ。じゃあ、お幸せに」
「ご丁寧にどーも」
「泣かすなよ?(コソ)
またな、なまえ」
「今度飲みに行きましょうねー!」
「…余計な世話だ」


片手をあげて遠ざかる赤木の後姿にそうつぶやいて、
銀二はなまえの肩を抱いて歩き出した






――――

赤木さんに「デートだから」って断られる夢を見た笑



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