もうなにも言わないで、くちずさんでしまえば消えて逝ってしまうから ▼ 天→葵要素あり 中学に上がってからクラスメートのみんなに聞かれたのは、「松風くんと付き合ってないの?」だった。わたしはそれがなんのことかわからなくて、首を傾げながら「え、なんで?付き合ってないよ」と答えていた気がする。みんなはその答えに納得の行かないような顔をして、「…嘘でしょ」となかなか信じてはくれなかった。わたしは苦笑を一つ零して、「天馬はただの幼なじみだよ。恋愛感情なんてない」と言って、みんな不服そうにわたしから離れて行った。そういえば、その次の授業の時天馬が元気無かったな。ていうか、そのあとずっと上の空だった。 「……という訳なんですけど、どう思いますか?」 「どうって言われても…」 わたしの目の前で苦笑を漏らした霧野先輩は、考えるように拳を作って顎に添えた。その仕草がどうにも自然で、尚且つ厭らしくない。心の中で感嘆しながら、眉を寄せる霧野先輩の顔を見つめた。 「…空野さ、それ本気で言ってる?」 「?勿論」 「……」 やれやれと言うように肩を竦めた霧野先輩を怪訝に見つめる。霧野先輩はそれから悩んだようにチラチラとわたしを見ながら、最後は諦めたかのように小さくため息をついて、「…これは俺の推測だけど」と律儀に前置きまでして、澄んだ青い瞳でわたしを鋭く見つめた。 「天馬はさ…空野が好きなんだよ」 「……へ」 「つまり、そのクラスメート達と空野の会話を聞いてショックだったんだろ。好きな奴に恋愛感情に思われてないなんて、辛くない筈がないから」 「……えと、」 「まあ、あれだ。…天馬が、元気無かった理由。」 「……」 絶句。だって、絶対にそんなことないって思ってたから。天馬がわたしを好きだなんて、それこそ天と地がひっくり返ってもありえないんだと。そう、信じてたのに。 「…そん、な」 「……」 「………そんな、今更、」 「…うん」 「今更、好きだなんて」 ガクガクと足が震える。小さく痙攣を起こす両手を握り締めて、霧野先輩に向けて微かに呟いた。 「わたしはもう、」 霧野先輩だけなのに。 霧野先輩が、小さく微笑んだ気がした。 20120413.title by るるる |