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「ぼ、暴力反対っ!」

「謙也さん
俺のは暴力やないです、愛です
スキンシップです

てか、今日はまだ謙也さんに
触れてすらないですけど」

「あれをスキンシップと呼ぶんかお前は…

まぁ、それは置いといて
俺が言っとるのは言葉の暴力やねん!」

「言葉?」

「せや!
何故かお前と話しとると甘々どころか
刺激たっぷりの辛口やねん」

「ふーん
つまり分かり易く言うと謙也さんは
感度が良くて俺の刺激に堪えられへん
っちゅーことですね

ええことやないですか」

「よくあらへんわ!
それにな、普通ちゅうは
もっと甘い味がするやろ!
なんでお前とのはいつも死にそうになんねん」

「…俺以外とキスしたことあるんか」

「(こ、怖っ)いやいや無い無い!!
後にも先にも全く全然絶対ちっとも無いです!!」

「ですよね
ヘタレな謙也さんがキス出来るわけがないすよね」

「はいごもっともです!

…とにかく、
俺はお前にもっと素直になってほしいねん
もっと甘く行こうや」

「はぁ、よぉわからんすけど
まぁ、なんや面白そうですし
お望み通りにしたりますよ」

「へ?」

「甘々でしたっけ?
明日一日限定でなったります」

「え、嘘、ほんまに?」

「おん。

たまには素直になるんもええわ
明日は謙也さんを可愛いがったりますよって」





ーーーsweet poisonーーー








「えっ…えと…その、なんや…




…ちゅー…




したいな




…なーんて」


「はい。ええですよ

はよ、こっちおいで」


たまたま部室に居合わせた
四天宝寺テニス部レギュラーメンバー誰もが
目の前の光景に目を見開いた

もちろんけしかけた当の本人、
忍足謙也も例外ではない

「どないしたんすか?恥ずかしいん?
フッ…ほんま、しゃーないすね」

雰囲気を柔らかくし
微笑を浮かべた黒髪の少年に部室内の誰もが目を奪われた
一拍置いて、相方小春にくっついていた一氏が
自己嫌悪するように自身を殴った音がした

と、いうのも
誰もが確信していたのだ
忍足謙也がキスを強請った時点で、あぁ終わったな、と
どうせまたいつものように張り倒されるのだろうと

ところが目の前の人物はいったい誰だ?

ゆっくりとベンチから立ち上がると
一歩一歩と謙也との距離を縮め
左手で頬を撫でると
愛しそうに目を細めた

「キス、したいんですよね」

頬を撫でる左手をそのまま顎へ異動し
右手で瞼を優しく撫でる

「目、閉じて」

じっと見つめる財前の言うことに大人しく従うと、
フッと笑ったのが息を感じて分かった


…近い


一瞬、唇に触れた感触



目を開くと財前はまだ俺見つめていた

「今のちゅうちゃうやん」

「あ、ばれました?」

ようやく止まっいた時間が動き出し
固まっていた部員がそれぞれ移動しだした
あちこちで新手のネタかいと突っ込む声が声がする

「分かるわ、アホ」

よくあるあれだ、
人差し指と中指でキスを真似る古典的なイタズラだ
これはこれでうっかりうっとり仕掛けたが
いくら財前が上手いとはいえ、
ここは笑かしたもん勝ちの四天宝寺
馴染みの手法な上、さらにテニス部ときたものだ

「あない豆だらけの唇がどこにあんねん」

財前の綺麗な指でも、努力を象徴した鍛えられた指では
容易に見破ることが出来た

「さいですか
俺の唇、覚えてまうくらいハマっとったんすね」

「な!…そ、そんなん、ちゃ、ちゃうし!」

ククッと笑うのに反比例して謙也はむすっと視線をそらした

「拗ねんといてくださいよ」

愛しむように親指で唇を撫でる
そしてため息ともつかぬ
近くにいた謙也がかろうじて聞き取れた程度の声で

「俺かて我慢しとるんです」

と小さくもらした

白石が急かすように手をパンパン叩くの聞き
財前はそのままコートへ出て行った





昨日の話は本当だったのか

アップを終えてコートでラケットを振る
財前の背中を見つめながらそうぼんやりと考える

よく思い返してみると確かに
今日はまだ一度も暴力をふるわれていない
そういえば今日の昼休みなんか、
思わずうとうとしてしまった俺を、珍しくも
叩き起こす、いや、踏んずけ起こさなかった

と言うのも財前の前で許し無しに寝るのは禁止次項なのだ

二人でいるときに寝るなんてええ度胸すね
そない退屈なら飽きんように刺激与えたりますよって

といった具合に不敵に笑う奴の餌食にされてしまう
ところが今日はどうだ
むしろ頭を撫でてくれていたような気さえする

考えながら財前を見つづけていると
手入れをしていないと言うが意外と艶があり綺麗な
漆黒の黒髪が汗で濡れていて、滴り落ち
うなじを伝い白い首筋をつうと流れ
広い背中へ消えていくのが目に入り何故か心臓が高鳴った

前に押し倒されたときに
明かるくて見えるから恥ずかしいと言ったら
見えるように明かるくしたのだと返され

ほな、俺も脱ぎます

と、背を向けてTシャツを抜いでいたの光景が浮かんできた

背中なんてもちろん部室で着替えるときにも
見ようと思えば見れるだろうが
あのときはとても心臓が高鳴ったのだ
財前が裾を持つと、ガバッと
背筋、肩甲骨、肩、項が現れた
鍛えられた綺麗な背中
しかしところどころに傷がついていた
引っ掻いたりと爪跡のような傷
痛ないですし気にせんといてください
そう言われて急に心臓が鳴り出した
自分のつけた傷だったからだ

と、見ていた背中が急に真っ白になる
はっと我に帰ると
財前が打ち合いを終えてタオルを引っかけたところだった

と、背中がくるりと体の向きを変えてこちらの方を向く
そこで目があって初めて
今までずっと財前だけを見続けていたことに気がつき
急いで視線を反らしてラケットを握り、
意味も無くガットを弄りそれっぽく取り繕いながら
気づいていないことを祈る
調度いいところに白石に話しかけられ、
話半分にそれっぽくてきとうに相づちをうっていたが
サクサクサクと足音が近づいてくるのが嫌でも聞こえ、
しかしそのかったるそうに歩くその音だけで誰か
分かってしまうのだから、相当自分はキモいと謙也は思う

「謙也さん」

ろくに聞いていなかった
白石との会話はいつの間にか終わっていて、
案外近くで聞こえる自分を呼ぶ声に
あぁ、見つかってしまったと
恐怖と好意の二つの感情で心臓がバクンと鳴った

声が震えていないか注意を払いながら何でもないように
わざと振り向かずにんー?とだけ返事をする

内心緊張していて固まったまま俯いていると
靴紐が解けているのに気がついてここぞとばかりに
結び直そうかと思いたった瞬間に、その足元が陰る
ハッと彼が至近距離にいるのだと思った瞬間に
触れてもいないのに背中に財前を感じてくる

「謙也さーん?」

耳に直接、いつもより低い声で甘く吹き込まれる
あいつは自分がそれに弱いと知っていてやってくるのだ
屈みきる前の不恰好なままの状態で謙也が再び固まったのを
見てフッと笑うと
両脇からスッと手を滑らせ、肩に顎を乗せ
隙間もなく背中にぴったりと貼りつくと
そのまま少しよりかかってきた

「おわっ…ちょ、財前、」

「なぁ、かまってや」

不意をつかれて謙也は前のめりになりかけて
恥じらったように何をするのだとばかりに声をあげた

何をするのだと聞かれて、財前はいつも思うのだが
尋ねておきながら本当は答えを知っているじゃないか
それとも恥ずかしいことを言われたいドMなのか
と疑問を抱かざるを得ないのだが、
今回ばかりは謙也は本当に不思議に思っているようだった
仕方がないので一応答えておく

「充電すよ」

「は?」

「さっきの試合、疲れたんで充電しとるんです」

謙也さんで、と言葉が続けられ謙也の顔が一気に火照る

「なぁ、謙也さん
さっきずっと俺んこと見てましたやろ?」

「ま、まぁお前の試合ならみ、見とったで!」

「せやのうて、
俺を見とったんちゃう言うとるんです」

そもそも、密着とか、
しゃべる度に動く肩に置かれた顎とか、
耳元にいるせいで小さく掠れた声で囁かれているとか

色々反則すぎる

「うッ……//」

「はは、かわええ」

意地の悪い笑顔てっきり笑われるのかと思い睨もうと
後ろの背中の方を見れば
滅多に見れない綺麗に笑う財前がいて
思わず見惚れて口をぽかんとあける

「みんなに見られるて…」

「ええやないすか、そんなん」

仲間をそんなん呼ばわりか
生意気やなぁと思いながらも
そんな生意気な彼はひやかしに来た一氏をうざったそうににあしらい
他人の目を気にせず擦り寄り、抱きしめてきて
自分が財前のトクベツになっているのだ
と思い知らされているような気がしてすごく嬉しくなった

でも

「財前、手は動かさんといて」

「なして?」

「…いちいちエロいねん」

「感じちゃいます?」

「ちゃうわ!
お前の日頃の行いからして危ういっちゅー話や!!」

「フッ

ほんまかわええわ」




部活を終えて着替えもせずに水飲み場に直行し喉の渇きを潤す
そのままの勢いで蛇口から流れ出る水に顔を突っ込んだ

「…っぷはぁ…あ、ありえへん、ありえへん!!//」

言い出しっぺは自分なのだか

今まで放置プレイよろしく
謙也がいくら絡もうと、かまってとせがもうと
キモいの一言でバッサリ両断してきたあの財前が、
かと言ってかまってきたと思ったら
今度は逆に激しすぎるスキンシップだったあの財前が、

部活中ずっと謙也に擦り寄りのしかかり
あまつさえかわいいと優しく愛でてくるなんて
いったいどこの誰が想像出来ただろうか、いや無い
そんな財前くんの
嫌いな古文の訳の反語で心の中で突っ込みながら
顔をジャブシャブ洗い頭を冷やす

「(まさか、こんなに反則的になるとは思わんかった…)」

あ、タオル忘れたなぁと思いながら
濡れたままでぼーっと今は誰もいないコートを見る

「…ざいぜん…」

「呼びました?」

「そうそう、何も考えずに顔洗ってもうて
財前くんタオル持ってきてくれへんかなって呼んだんやでー
って、んなわけあるかい!!」

「ちゃうの?」

「いやいや明らかにそんな声のボリュームちゃうやろ!
もっと甘く切ない囁きやったやろ!」

ぐわっとツッコミながら突然現れた財前を振り返る

「?甘く切ない?何してんすか?
みんなたいがい着替え終わっとるんすけど」

「あぁ、その、いや、今顔洗うてて…今行くで!」


「あ、謙也さん…」

「へ?」



「……濡れとる」




近寄って首にかけていたタオルを手に持ちながら言ったから
財前はもちろん当然の指摘をしているわけだが、
いつもと違い甘い声で話しかけてくるので
なんというか、妖しい響きになっていて
思わず謙也はかぁぁと顔を真っ赤にすると
財前はクックと喉を鳴らした

「ほんまあきませんわ

せっかく俺が優しゅうしたってんねやから
あまり可愛くしらたあかんて」

タオルを謙也の首にかけてグッと引っ張り顔を近づけさせる

「虐めたなるわ」

ゆっくりと唇が触れられ、ちゅ、と濡れた音が響く
固まったままの謙也を溶かすかのように唇に舌を這わせると
下唇を咥え、方向を変えて
最後に食べるように音をたてて口づけると
ゆっくりと離れていった

目を開くとまだ案外近くに顔があって思わず視線を反らすと
唇が銀の糸で繋がっているのが見えた

「謙也さん…かわええ…」

目を閉じる間も無く再び唇が重なったので
案外長い財前のまつ毛が
閉じて、ゆっくり開くのを見てしまった
まつ毛の向こうに見えた黒い瞳にやられて目を奪われる

ちゅ、と音がしたので
ようやく忘れてしまっていた呼吸をすると
思いの外甘い吐息になってしまって恥ずかしくなって唸ったその吐息まで飲み込むように唇を重ねられると
その唇を離さないまま吐息混じりに微かに名前を呼ばれて
鼓動すら忘れていたのではないかと思っていた心臓は
今度は破裂するのではないかと思うくらいに早鐘を打った




「ここから先は

二人きりになるまでお預け」



「え…」

完全に流されきっていて
思わず期待していたような声がこぼれてしまい、はっとする
弁明しようとわたわたすると額にキスが降ってきた

「はよ着替えて、遠回りやけど大通り避けて、
今日は手繋いで帰りましょ」

「せ、せやな」

もう制服になっていた財前は謙也を着替えさせるべく
既にみんな帰ってしまっていた部室へと連れる

「そない残念そうにせんでください」

「ざ!残念そうになんかしてへんわ!」

財前に渡されたタオルで顔を拭うと
なんだかいい匂いがするような気がして思わず顔を埋める

「せやかて手動いてへんやん」

「それはお前が着替え終わっとるからって
こっち見とるから着替えずらいんやないか」

仕方がないのでくるんと財前に背を向けて
なんとなく視線を感じながらもポロシャツを脱いだ

「ほんまに?拗ねとったんちゃいます?」

いつものような毒がある言い方ではなく
ククッと柔かく笑いながら言うもんだから
調子が狂って言い返せない

「まぁ、明日休みなんやから
そんときめいっぱいかまったりますよって」

後ろから謙也の腹のあたりを抱き込み、
そのままの勢いでベンチに座り脚の間に謙也を座らせると
慰めるように頭を撫でてくる
Yシャツ着れへんやないか
と思いながらもなんのかんの言って嬉しいので黙っているが

きっと端から見たらおかしい光景だろう
上半身裸の大きい男が
自分より小さな後輩に抱き込まれて愛でられている
そしてその後輩には見えない大きい男の顔は
真っ赤になって幸せそうに目を細めているのだから

「…明日はいつものドSモードやないかい」

やっぱり自分はこの男に相当愛されているのかもしれない
こんなこと、この男は好きでもなければ冗談でもするようなやつではない

「そうなりますね」

何より、その優しい手つきから感じるのだ

「ほな絶対かまっくれへんやん」

もちろん嘘だ
本当はそんなことはないことを知っている
単なる言い訳のとっかかりだ

「いやむしろ手加減せんで」

「…それはそれで怖いわ




なぁ、ともかく今日のうちやないとあかんねん

今なら二人きりやん


お預けせんでよおない?」

くるりとふりかえって甘えるように抱きつく
結果的に上半身裸になってしまっていることも
自分の方が背が高いから体制が難しくて
床に立て膝ついて財前を見上げることになってしまったのも
本当は気がついている

「そないなこと言うて
ほんまはイジメて欲しいんちゃいます?」

あぁ、いつもの毒を含んだ声の調子に戻っている
もしかしたら自分はこの毒にやられて中毒になってしまったのかもしれない

「い、イジメて欲しいわけやないけど!




……お預けは嫌や」

急に恥ずかしくなって顔を埋める
額にカチンとベルトがあたった

「ほんま堪え性あらへんなぁ」

ご無沙汰だった冷たい視線が下りてきた
でも既に謙也は今日知ってしまっている
その内側にある暖かい眼差しを

「せやけど部室でいちゃつくとか
そんなん絶対羞恥プレイやりたなってまいますやん
甘々に出来ひんわ」


「もうなんでもええから」






なぁ、かまって?






どんなカタチでも

結局ただ俺は




君の愛を感じたいだけ






end
- ナノ -