新紋章 SS | ナノ


▼ 美しい絵画



その日は、実に穏やかな風が近くの草花を揺らしていた。もうすぐ戦いが始まるにも関わらず、空を見上げればどこまでも青い空が広がっていた。思わずため息をつく。この大地も戦争によって無惨な姿になるのだ。

私は剣を地面の上に置き、その景色を完全に見渡そうと立ち上がった。

「クリス、どうしたの?」
「この草原です」

近くで弓をいじっていたゴードン殿が、私の言葉に顔をあげる。彼はじっと空を見つめた後、柔らかい表情で、綺麗だねと一言呟いた。

「この景色だけ見てれば平和なのになあ」
「あはは、そうですね」

苦笑いしたゴードン殿に私も苦笑いで返す。この景色を切り取り、額に入れる事が出来れば。そのまま誰も手を加えなければ、綺麗な景色のままなのだろう。そんな話を何となくしたら、ゴードン殿は案外真剣な表情で聞いてくれた。

「確かに、この景色が戦争で汚れるのは嫌だな」
「この景色が切り取れたら…」
「まあ…仮に切り取れたとしても、戦いが終わる訳じゃないんだけどね」

再び手元の弓に顔を戻した彼は、武器の最終調整をするよう私に促す。もう少し見ていたいけど、あと少しで戦いが始まる。仕方なく空から目を外すと、簡易椅子に腰掛けた。同時に、自分の手に彼の手が静かに重なる。

「守れないものもあるけど、確実に守れるものは守っていきたいな」

ぽつりとそう呟くゴードン殿。顔を向ければ、彼は優しい表情でこちらを見て、そして私の手をぎゅっと握った。



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