新紋章 SS | ナノ


▼ ルーク



今日は特にこれといった戦闘もなく、穏やかな一日だ。私はそう思いながら、部屋にたまった戦術本やら兵法に関する書物の整理をしていた。たまにはこういう日もいいなあ。

「なークリス、頼みがある!」

平穏を噛み締めていたところで、ノックすらせずルークが部屋に押し入ってくる。書物からいったん目を離し、彼の顔を見ればなんだか全体的に輝いていた。どうせろくな頼みじゃないなこれは。

「他当たって」
「せめてオレの話を聞いてから断れよ!」

それで即答すれば、即座に彼が吠える。確かに面倒そうというだけで断るのは良くなかったかもしれない。ルークにしては的を射た反論である。仕方がないので話を聞いてみたところ、「戦術や兵法について教えてほしい」とのこと。思いのほか普通の頼みで驚いた。というかあのルークからそんな言葉が出てくること自体に驚いた。

「それぐらいならまあ…でも唐突だね」
「まあな。さっきロディからお前がそういうのも勉強してるって聞いて。オレも負けてられねえなって思ってさ」
「そういうことか」

ルークはそう言ってにかっと笑った。そういえば、以前ロディとそんな話をした気がする。きっと負けず嫌いな彼のことだからこんな頼みをしてきたんだと思う。まあどっちにしろ驚きだけども。そういう内容であれば特に断る理由もない。

「ちょうど書物の整理をしていたんだよね。ルーク、今から時間とれる?」
「おう!つーかそのために来たんだしな」

比較的初心者でも分かりやすい書物を選び、ルークに向き直る。彼はどことなくワクワクした表情を浮かべていた。なんだその楽しそうな顔。言っとくけどな、お前が思っているほどこういう系の勉強は楽しくないんだぞ。地獄をみるぞお前。


#


「…クリス」
「なにルーク」
「なんだよこれ…難しすぎるだろ…」

数時間後、机に突っ伏して脱力しているルークがいた。私の予言通り地獄をみている様子である。ばかめ、軽い気持ちで始めたことがそもそもの間違いだったな。対する私は、書物を開くと優しい表情で彼に問いかけた。

「それでルーク…このページの答えは?」
「鬼かお前は」

恨めしそうにこちらを見上げるルーク。予想以上に頭を使ったらしく、その顔には疲労が見て取れる。ちょっと意地悪が過ぎたかもしれない。なんだかんだ言ってはいるが、実は彼はかなり真剣に勉強に取り組んでいたのだ。あのルークが。正直なところ少し見直した。

「じゃあ今日はここまでにしようか」
「いや…まだやる」

うぐぐ、と唸りながらも書物を眺めだしたルークに驚く。今日は驚きの連続だな本当。それならばと休憩を提案すれば、彼は「それもそうだな」と呟いて再び机に突っ伏した。限界じゃねーかお前。私もいったん書物を閉じ大きく息を吐く。

「ルーク、お疲れ様」
「クリスこそ、わざわざ時間割いてもらって悪いな」

労わるようにルークの肩を叩けば、頬杖をついた彼がため息を零しつつ笑った。普段とは違う落ち着いた態度に、少しだけドキリとする。お互いに疲れてるんだろうな。まさかルークにときめきを感じるとは。以前「オレがモテないのはこの髪形のせいだ!」とかなんとか言っていだけど、間違いなく性格に難があるからだと思う。落ち着いたらモテるぞ多分。

「それにしても、よく途中で投げ出さなかったね」

うーんと背伸びをしつつルークに言葉を投げかける。昔から比べたら、彼もだいぶ努力というものをするようになった。騎士としての自覚が出てきたように思う。だけど今回については、努力の一言では片付けられないぐらい、ルークは必死だったように見えた。なにが彼をそこまで突き動かしているんだろう。すると彼は冗談めかしたように笑みを深くした。

「ずばり!好きな奴と少しでも長く時間を共有したい、ってやつだな」
「…」

思わず言葉に詰まる。いやまあ、ルークが前から私のことをそれそれそうなのは知っていた。が、面と向かって言われると反応に困る。すごく困る。

「…もしかして下心だけで頑張ってた?」

どう返すのが正解なのか分からず、とりあえずジト目でルークを見返す。彼は「やめろよその目…」と頬を引きつらせたあと、ふうと一つ息を吐いた。

「それもあるけど…やっぱりお前に置いていかれるのが嫌なんだよな、オレ」
「別にそんなことは」
「いやある。オレだってクリスと同じ世界を見たいし、お前と対等でありたい」

真面目な目をしてそう言い切ったルークに、私はどう返せばいいのか本当に分からなくなってしまった。ただじわじわと自分の頬が熱をもってきていることだけは理解できる。ルークなんかに…ルークなんかに照れさせられるとは!くそっ、ちょっと格好いいなとか思ってないし!

「そこまで言うなら、私も…これからもルークに色々と教えていくから」
「お、う」

やっとのことでそう言うと、今度はルークが顔を赤くして固まってしまった。なんだこの雰囲気!私はただ普通の返答をしただけだというのに。もうやだ!誰か助けて!



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