妹(仮) | ナノ


▼ 迫りくる弓騎士



「よし、第七小隊の攻撃を開始する!」
「了解!」

兄さんの合図で、小隊の皆が一斉に動き出した。ルークとロディは兵士の相手をし、ライアンが矢を放つ。私と兄さんも加勢し、カタリナは戦況を伝える。なかなか順調だ。

「はあっ!」
「ぐうっ…!」

しばらくそうやって戦っていると、一瞬だけ兵士の配置が乱れた。奥には将として佇むジョルジュ殿が見える。

「ナマエ!今だ、行け!」
「はい!」

それを兄さんが見逃すわけもなく、叫び声に近い指示が飛んでくる。私は小さく頷くと、ジョルジュ殿に向かって一直線に駆け出した。同時に、ジョルジュ殿が弓を構える。もちろん的は私だ。

「…速いな。だが、それでは間に合わん」

ジョルジュ殿の口がそう動く。さすがは大陸一謳われるだけあって、流れるような動作だ。あの矢を放たれてしまえば、確実に私に当たるだろう。そう思わせるだけの気迫が彼にはあった。もっと、もっと速く動かないと…!

「ナマエ!剣で隙を埋めろ!」

後方から兄さんの大声が響く。私は考えるよりも先に、本能的に腕に力を込めた。地面を目一杯蹴り上げて、ジョルジュ殿の間合いに潜り込む。そして彼の腹部目掛けて、鋭く剣先を突き出した。

「……!」

目の前の相手が少しだけ目を見張る。

「…私達の勝ちです」

ジョルジュ殿の目を真っ直ぐ見据え、端的にそう伝える。そんな私を冷静な目で見つめ返した後、彼はゆっくりと弓の構えを解いた。

「……そのようだな。見事だった」
「ありがとう、ございます」

その言葉を区切りに、緊迫した空気が霧散していく。ふっと笑ったジョルジュ殿は、どこか楽しそうな表情をしていた。

やった、勝つ事ができた…!!

詰めていた息を緩めて、何度か荒い呼吸を繰り返す。相討ち覚悟で、全身全霊の力を掛けて突っ込んだからかなり疲れた。

「ナマエ!よくやった!」
「兄さん…!」

呼吸が落ち着く頃に、後ろから兄さんが走り寄ってきた。そのままぐりぐりと頭を撫でられる。もうそんな歳じゃないんだから、そういうのは止めてほしい。…別に嫌ではないんだけど。

「兄妹か、素晴らしい連携だった」
「ジョルジュ殿、ありがとうございます」

心なしか誇らしげな表情で頭を下げる兄さん。私も、無意識に自分の頬が緩むのを感じた。褒められて嬉しくない訳がない。

「二人とも、名はなんという?」
「おれはアリティア従騎士クリスです」
「同じく、妹のナマエです」
「クリスにナマエ、その名覚えておこう」

ジョルジュ殿は私達の名前を反復すると、静かに笑みを浮かべた。

「お前たちの為に、何か手助けができればいいんだが…」
「もしかして、ジョルジュ殿が我が小隊に?」

ジョルジュ殿の言葉に、兄さんが真面目な顔でそう問う。

“仲間として助力を得られるならば、その力を借りて良い“
以前の実技訓練で、ジェイガン様が仰っていた言葉だ。つまり、協力を申し出てくれる人がいれば、第七小隊の仲間として扱って構わない。現に私達の小隊は、シーダ様の協力を得る事ができている。

「いや、オレは無理だな」

期待も虚しく、ジョルジュ殿が首を横に振る。まあ仕方ないか。アカネイア王国の将軍だし、そんなに長くこちらに滞在するわけでもないのだろう。

「代わりといってはなんだが…ゴードン、来てくれ」

少し遠くでこちらを見ていたゴードン殿に向かって、ジョルジュ殿が手招きをする。ゴードン殿は「やっぱりか」という表情をして、私達の方へ歩いてきた。なんだか、オチが読めてきた気がする。

「なんですか、ジョルジュさん?」
「オレの代わりに、第七小隊の力になってくれ」
「人使いが荒いなあ…分かりました」

ちょっと呆れたような顔をしながらも、快く承諾をしてくれるゴードン殿。
彼が言っていた、"これからぼく達はたくさん関わっていく事になる"という言葉の意味を、やっと理解する事ができた。仲間として関わっていくって事か。ゴードン殿は、なんとなくこうなる事を予想していたのだろう。

「ゴードン殿、改めてこれからよろしくお願いします」
「ナマエ…こちらこそよろしく」

敬いと親しみを込めて、ゴードン殿に笑顔を向ける。第七小隊にとって、彼は心強い仲間になるだろう。兄さんだって喜ぶはずだ。

「ナマエはゴードン殿と知り合いなのか?おれには一度もそんな話を」
「その話は後で詳しく話しますので!」

…きっと兄さんも喜んでくれているはずだ。


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