妹(仮) | ナノ


▼ 再会の先輩騎士



「ふああ…」

大きな欠伸を溢しながら、朝食をもそもそと口へ運ぶ。食堂は閑散としていて、静かな時間が流れていた。普段の食堂は、野郎共の暑苦しい巣窟と化しているから、落ち着いている雰囲気はとても新鮮だ。珍しく早起きして良かった。

「今日の実技は昼頃からだっけ」

ぼんやりと、教官であるカイン殿の言葉を思い出す。本格的な騎士訓練が始まって、既に二週間が経過していた。キツイとの話は聞いていたけれど予想以上だ。あまりのキツさに、脱走や落第した小隊もいるとかいないとか。

(私も少し訓練を増やそうかな)

一応、実技の時間以外は自由行動が許されている。休息なり読書なり、時間の使い方は本人次第だ。現に兄さんやカタリナとかは早朝訓練だし、ルークはぐーすか寝ている。…うちの小隊が脱走はないと思うけど、たまにはルークを訓練に引っ張り出そうかな。落第が怖いし。

「あ、ナマエ。前座って良いかな」

そうやって考え事をしていると、誰かから声を掛けられる。空いてる席は他にもあるはずなんだけど…わざわざ誰だろう。疑問に思って顔を上げれば、緑髪の青年が朝食を携え、目の前に立っていた。

「ええと、構いませんよ」
「良かった」

一瞬誰だか分からず、とりあえず曖昧に笑っておく。この人に見覚えはあった。しかし誰なのかが思い出せない。多分知り合いだと思うんだけど…。

「……あっ、ゴードン殿ですか!?」

必死に記憶を掻き集め、なんとか答えを導き出す。確か、ライアンのお兄さんであり、アリティア正騎士でもあるゴードン殿だ。騎士試験の日に一度顔を合わせて以来かな。私の言葉に、彼はきょとんとした顔をした。

「あれ、もしかしてぼくの事覚えてなかった?」
「あ、す、すみません」
「まあ仕方ないか…一度しか会っていないからね」

苦笑しながら、ゴードン殿が席に着く。うう…試験日の時といい失敗続きだなあ…。

「ゴードン殿は、私を覚えていてくださったんですね」

いたたまれなさを感じながらも、さっきから思っていた事を口にする。ゴードン殿からしてみれば、私は多々いる従騎士の一人にすぎない。一度話しただけではすぐに印象が薄れてしまうはずだ。だから嬉しい反面、どうして名前や顔を覚えてもらっているのか疑問も強い。

「覚えていたというよりは…刷り込まれたって方が正しいかなあ」

考えるような仕草をして、よく分からない事を言うゴードン殿。

「どういう事ですか?」
「大した事じゃないんだけどさ。弟…ライアンが、会う度に第七小隊の話を必ずするんだ」
「ライアンが…」
「うん。それで、ナマエの話題が特に多くて」
「だから、刷り込みってわけですね」

定期的に同じ人物の話を聞いていれば、そりゃ必然的に記憶に残るわけだ。ライアンはどんな感じで私の事を話していたんだろう。かなり気になる。

「もちろん、それだけじゃないよ」

ゴードン殿がさらに話を進める。

「騎士試験の日、ナマエはライアンと組んでくれたよね」
「はい」
「あの時のきみは、とても優しい目をしていて…多分、刷り込みがなくてもぼくはきみを覚えていたと思うよ」
「…あ、ありがとうございます」

ちょっと照れたように笑うゴードン殿に、動揺を隠しながら頭を下げる。まさかそんな事を言われるなんて…。嬉しいやら恥ずかしいやらで、私の頬は微かに熱をもっていた。こういう事を、素直にサラッと言えるゴードン殿が眩しい。

「同じ城で生活しているはずなのに、今まで顔を合わせなかったというのも不思議な話だね」
「それは確かに…」

訓練場や書庫ならまだしも、廊下ですれ違った事すらない。私とゴードン殿じゃ、根本的に生活リズムが違っているのかもしれない。

「ゴードン殿は、いつもこの時間に朝食を?」
「うん、そうだよ」

試しに聞いてみれば、予想通りの答えが返ってきた。

「ナマエは?」
「私は、いつもはもう少し遅めです」
「つまり、今日ぼく達が会えたのは偶然なんだね」

穏やかに微笑むゴードン殿。早起きは三文の徳というけれど、本当にその通りだと思う。ゴードン殿とこうして、和やかな食事をする事ができているのだから。逆に言えば、早起きをしないと彼に会えないって事でもあるのかな。

「まあでも、これからぼく達はたくさん関わっていく事になると思う」

まるで私の思考を読んだように、ゴードン殿がそう続ける。

「ライアンを通してという意味ですか?」
「それもあるけど、うーんなんて言うかなあ…今ジョルジュさんも来てるし…」

どうやら説明するには少し難しいみたいだ。食事の手を止めて悩みだしたゴードン殿に、「無理なら説明不要です」と一応伝える。

「なんにせよ、ゴードン殿と関わりを持てる事は嬉しいです」
「ありがとう。そう言ってもらえてぼくも嬉しいよ」

ゴードン殿は経験豊富なアリティア正騎士。彼から学ぶことは多くあるだろう。それを抜きにしても、ゴードン殿にはどこか惹かれるものがあった。

「ごちそうさまでした。ではゴードン殿、失礼します」
「うん、じゃあまた昼に会おうね」

色々話しているうちに、自分の皿が空になる。私はゴードン殿に見送られながら、賑わいつつある食堂を後にした。さあ、ルークでも訓練に誘うか。

(……ところで、「また昼に会おう」ってどういう事だろう)


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