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▼ パイソン


微睡みの中で誰かが私の名前を呼んだ。確認するような、まるで様子を窺うような声音だ。起きたほうがいいのかな。そう思いうっすらと目を開けると、眼前いっぱいにパイソンの顔が映った。

「パイソっ…!?なにこれ!?」
「あー…起きちゃった?」

彼我の距離はほんの僅か。ちょっとでも動けば事故が起きてしまう距離だ。私の肩には手がかけられ、動きを封じられている。机で突っ伏して居眠りしている間に、一体なにがあった。

彼はいつもの気だるげそうな表情に、少しだけ驚きの色を浮かべていた。いや、驚きたいのはこっちだ。

「近い近い近い!顔近い!」
「あ、おい…ナマエ」

パイソンから距離をとるように、座っていた椅子から転げ落ちる私。本当に彼は私に何をしようと…どう足掻いても導き出される答えはひとつしかない。瞬時に眠気がとび、じわじわと羞恥心が襲ってくる。

「なんっなんで、こっこんな…何かの事故でああなっただけだよね!?」
「…そりゃ、好きな奴が無防備に寝てたら、ねえ?」
「言った!さらっと告白された!」

頭を掻きながら、事もなさげにそう呟くパイソン。念のために言っておくが私と彼は恋人ではないし、そもそもパイソンが私に想いを寄せている事自体、今初めて知った。

「だってさ、あんな真似しちゃって弁解とか無理だわ」
「だからって開き直るな!寝込み襲われそうになった私が言うのもなんだけど!」
「"襲われそうになった"?残念、お前が起きる前に何回か…」
「もうパイソン黙ってて!お願いだから!」
「ひひっ…はいはい、分かりましたよーっと」

にやにやと笑いながら、自分の唇を軽く舐めるパイソン。妙に艶かしい仕草だ。そう言われてみれば、唇がいつもより湿っている気が…いや、これ以上この話題を掘り下げてはいけない。私の精神状態に支障をきたす。考えるのはよそう。


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