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▼ ルカ


「今日も驚く顔が見れなかった…」

ルカという男は、何を仕掛けても驚かない。とぼとぼと草むらを歩く私に、追い討ちをかけるように烏が鳴く。ルカと出会ってから今日まで、あの手この手で悪戯をしているが、彼は全く驚いてくれない。

「ただ、あっと言わせたいだけなのに…!」

初めは「彼のすましたような態度が気に入らないから、悪戯して驚かせてやろう」というしょうもない理由からだった。
だけど今日に至るまでに、いつの間にか「絶対にぎゃふんと言わせてやる」という意地に変わっていた。あまりにも手ごたえがなさすぎると、人間燃えるものだ。

「…ナマエ!こんなところにいたのですか」
「あれ、ルカ」

噂をすればなんとやら。呼ばれて振り返れば、先ほど別れたはずのルカが私の腕を掴んでいた。

「もうすぐ夜になります、砦に戻りますよ」
「そんな時間か」

どうやら私を探していたようで、咎めるようにこちらに目をむける彼。私は肩を竦めると「はーい」と気持ちの篭っていない声で返事をした。ジト目が返ってくる。

「ナマエ、行きますよ」
「はいはい」
「はいは一回で良いです」

ルカに引き摺られるようにして帰路を辿る私。視線を前に向ければ、赤い甲冑が目に入った。ルカ…いつも悪戯ばかりしてくる人間を呼び戻しにくるなんて、なんて真面目な奴なんだろう。

「…もしかして、ルカって私のこと好きだったりしてー?」

ただの冗談のつもりだった。茶目っ気をたっぷり含んで、笑いながら彼の背中に問いかける。そうしたら、いきなりルカが立ち止まった。私は止まりきれず、目の前の赤い甲冑に鼻をぶつけた。痛い。

「ルカ!いきなり止まらないでよ!」
「……」
「ルカ?」

呼びかけても反応がないので、回り込んでルカの顔を見る。なんと彼は目を見開いて、驚きからか顔を真っ赤にさせているではないか!

「ルカ!?もしかしてすごく驚いてる!?」
「まあ…はい…ナマエ、今は私の顔をあまり見ないように」
「なんでよ!」

片手で顔を覆い本気で驚いているらしいルカ。耳まで赤い。これでは顔が見れないが、まあいい。ふとした冗談だったのに、念願だった彼の珍しい表情が見れて私は満足だ。


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