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▼ 頑張れロビン



今、私の視線の先にはクレアがいる。槍の訓練をしているようで、その可憐な容姿も相まって、一つの芸術品を見ているような錯覚に陥る。そして降り注ぐ柔らかな陽の光が、よりいっそう彼女を美しく見せていた。ああ、なんて素敵な光景なんだろう。幸せだ。

「…ナマエ」

そんな感じで、少し遠くから彼女を眺めていたら、不意に名前を呼ばれる。顔を上げれば、休憩しにきたらしいロビンが、困ったような表情でこちらを見下ろしていた。

「なあ、ナマエって本当にクレアが好きなのか?」
「好きだよ」
「まあそう答えるよな」

何を当たり前の事を、と間髪入れずにそう答えれば、その表情に拍車がかかる。というかいきなりなんなんだ。怪訝な目を向ければ、彼はちょっと躊躇うような仕草をした後、私の隣に腰を下ろした。

「えーと、真面目な話?」
「どちらかといえば」
「そっか」

本当はクレアを見ていたいが、真面目な話なら、こちらも相応の態度で臨むとしよう。視線を向ければ、ロビンはらしくもなく気難しそうに眉を寄せ、うーんと小さく唸った。そして意を決したのか口を開く。

「お前がクレアを好きなのは知ってる」
「うん」
「それでさ…それは本当に恋愛感情としての好きなのか?」
「もちろんそうに決まって…」
「即答はなしな!今少し時間やるから、ちょっと考えてみてくれ」

慌てたようにそう付け足され、私は渋々口を閉ざした。考えてみろと言われても、何をどうすればいいんだろう。 よく分からないので、とりあえず今だ訓練中のクレアを見つめる。すると心に温かいものが滲み出し、段々と広がっていくのを感じた。つられて口元もほころぶ。

「おー…随分と幸せそうな顔してんな」

ロビンがちょっと引き気味な声でそう言う。

「そう…クレアを見ると胸が温かくなって幸せな気持ちになる。これはもう恋だよ」

私はロビンに向き直ると、胸にぎゅっと手を当て、その言葉に深く頷いた。焦ったようにロビンが口を開く。

「いや待て、まだ考える余地はあるぜ!」
「くどいよロビン」
「まあ聞けって、ナマエはクレアに対してドキドキとかするか?」
「確かにそれはないけど、恋愛感情なんて人それぞれでしょ」
「それ言ったら終わりだろ」

ロビンは情けなく眉を下げると、思わずといった感じでため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだって一緒だ。話が平行線すぎて、そもそもなんで私とロビンはこんな話をしているのか、疑問にさえ思う。
正直どっちでもいいんじゃないか。結論はそれで出ていると思うのに、ロビンはどうしても白黒つけたいようで、真面目な顔で私をじっと見つめた。

「なあ、ちょっとナマエ手を貸してくれ」
「…別にいいけど」

急によく分からない事を言われ、不審な目を向けつつも右手を差し出す。するとロビンは手袋を外し、緊張した面持ちで一つ深呼吸をすると、壊れ物を扱うかのように、私の手を両手でそっと握りしめた。え、なにこれ。意味が分からず困惑の眼差しでロビンを見る。

「これは一体なに?」
「なにっていうか…んーその、ドキドキしないか?」
「…ドキドキ?」
「さっきの話の続きだな。俺はまあ、ナマエとこうしてるとドキドキするっていうか…」

ゆるゆると顔を赤くし、照れくさそうに笑みを浮かべるロビン。どうやら私をドキドキさせたかったらしい。確かにこうやって手を握られていると、彼の真摯な気持ちが伝わってきて、じんわりと心が温かくなる。しかし胸のときめきは全くない。
申し訳なさそうにその事を伝えれば、ロビンはがくっと肩を落とした。

「なんでだよ…酷すぎんだろ…」
「…もうどっちでもいいと思うんだけどなあ」
「いや、ここではっきりしとかないと後で俺が困る」
「意味が分からない」
「…おーおーそのまま分からず苦しめこのやろう」

ロビンはそう捨て台詞らしきものを吐き、訓練いってくるわと言って去っていった。本当になんだったんだろうと思う。


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