▼ フォルス
周りの人から言わせると、私は所謂「真面目」というものらしい。自分自身もそれをなんとなくだけれど分かっている。パイソンなどを見ていると説教したくなってくるし、想定外の事態にはかなり弱い。
「フォルス…これは、一体…」
「…ナマエ、とりあえず下着をつけてくれないか…」
「あ…うん」
目が覚めたら素っ裸な私。布団の上に綺麗に畳まれた下着と衣類。そして土下座をしそうな勢いで頭を垂れているフォルス。想定外の事態に弱いと言ったが、この状況はまさしくその一例だ。何が起こったのか大体予想はつく。記憶はあまりないが、多分私は彼と肌を重ねたのだろうと思う。
「…一応、後ろ向いててくれないかな」
「すっすまない…」
はっとしたように顔を上げたフォルスは、ぐるんと音が出そうな勢いでこちらに背を向けた。心なしか背中を震わせている。私はその様子を眺めながら黙って着替えを始めた。人間、あまりにも他人が取り乱していると逆に冷静になれるものだ。それにしても、あの生真面目なフォルスが恋人でもない人間とこういった行為に及ぶなんて、恥ずかしさとか以前に驚きを隠せない。
私も私だ。普段なら絶対こんな真似はしないはずなのに。うーん…脳の処理が追いついていない。
「着替え終わったよ、フォルス」
「あ、ああ分かった…」
ゆっくりとこちらに振り返った彼は、恐る恐るといったように私を見た。声にいつものような覇気を感じられない。萎れた植物のような彼とは対照的に、私は比較的落ち着いた態度を保っていた。理由は上記で言った通りだ。
「…ナマエ、僕と結婚しよう。必ず幸せにする」
「待ったフォルス」
しかし、流石にこんな事を言われて落ち着いていられるわけがない。
「…こうなってしまっては、男の僕が責任を取るしかあるまい!」
「ひ、飛躍しすぎじゃない!?」
吹っ切れたように使命感に駆られた表情でこちらに迫ってくるフォルス。私は慌てて布団の端に逃げると、両手で彼の体を押し返した。
そうだ思い出した。私は確かに真面目な人間だが、フォルスはそれを優に超えるバカ真面目な人間だった。きっと彼の頭の中は、責任を取る=結婚で埋め尽くされているに違いない。
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