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▼ ルカ


柔らかな光が差し込む黄昏の時だった。自分が言った言葉、彼の表情…あの日のことは何もかも鮮明に覚えている。

『私…ルカのことがずっと前から好きでした!』

何度かつっかえながらも、長年の想いを本人に伝えることが出来た嬉しさ。達成感。そして相手にどう返されるのか分からない恐怖心。とにかく、あの時の私は告白で手一杯だった。

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「ナマエ、いい加減腹をくくってください」
「待って明日!明日にしない?」
「はあ…私が何度その言葉を聞いたと思っているのですか…」

私の肩を掴んだまま、目の前のルカが呆れたように溜息をつく。さすがは常に冷静沈着と評されるだけあって、力ずくで私を押さえつけてはこない。しかし拘束は緩いともいえない。後ろには壁があるし前には歩く壁がいる。

「そろそろ私も返事をしたいのですが」
「心の準備がまだ出来てない…!」
「…もう半月も経っていますよ、ナマエ」

再度ルカが咎めるようにこちらを見る。うっ…と自分の口から弱々しい声が洩れた。
あの日…私が彼に想いを伝えた日。言うだけ言って返事も静止の声も聞かず、彼を背にして逃げ出したあの日。あれから『返事をさせろ』『待って』の押し問答が幾度となく展開されている。

「良い返事だと分かっていて、なぜそこまで逃げるのです」

肩を掴む手に少しだけ力が篭る。普段より低い声が耳近くを刺激し、ぶああと自分の顔どころか首筋にまで熱が籠るのを感じた。顔を近づけるなと視線を向けると、じっと見つめられてこっちが白旗を上げる。私だってそこまで鈍感ではないから分かる。ルカが私を好いてくれていることぐらい。

「だけどこの甘い空気が恥ずかしいんだよー!」

確かにルカと恋人になりたくて告白したわけだし、実際にもっと触れたりしたいとか欲求はある。しかし初心な感情がそれを邪魔する。
私の魂の叫びを聞いた彼は、少しだけ目を丸くした後小さく噴き出した。

「この空気の読めない発言…それでこそナマエですね」
「なんとでも言ってよ、この皮肉屋」
「では、返事をさせてもらいます」
「それは駄目」
「私も以前からナマエのことを」
「待って!恥ずかしい!」

手を掴まれていないのを良い事に、急いで耳を塞ぐ私。彼の返事を聞いてしまえば私達は晴れて恋人となる。つまり私の予防線が踏み越えられるということだ。
私はまだこの甘い空気への抵抗力がない。恥ずかしさで毎回赤面するという醜態を晒すことになる。彼には申し訳ないが、告白の返事はもうしばらく待ってもらうことになるだろう。


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