※「狡い大人」と少し繋がっています。










 百一年前からガラッと様変わりした護廷隊の面子の中に、平子は見覚えのある顔を見つけた。記憶の中にある姿よりもずいぶん成長しているが、間違いない。憎たらしいほど整った中性的な顔立ちには、かつて六番隊のツートップを務めていた二人の面影があった。
 平子は彼が嫌がっていた呼び方を、百年以上経った今でも覚えていた。何で覚えてんねん、と一人内心でツッコミながら、彼と初めて出会った日のことを思い返す。
 小さく生意気で、少女のような風貌だった少年は、あの頃とは比べられないくらい大きく逞しくなっていた。それでも他の大多数の隊長格に比べれば華奢であったが、彼の生まれ持った強大な霊圧と大貴族に相応しい風格が、決して彼を弱く見せていなかった。

「ちょい待ち、六番隊隊長サン」

 おどけたように後ろから声をかけると、彼の足が止まった。顔がこちらへ向けられる。

(えらい色男になったもんやなあ。……いや、これは美人言うた方が合っとるかもしれんな)
「何用か、五番隊隊長」

 感心してじっと顔を見つめていると、目の前の眉間の皺が徐々に深くなっていく。不快そうな顔が、昔のままだった。
 しかし、感情豊かだった少年の姿を思い起こせば、今の彼にはあまりにも感情がないように感じられた。いや、感情がない、という表現にはいささか語弊があるだろう。おそらく彼は、感情を押し殺しているのだ。
 あんなにもころころと表情を変えていた少年が、いったいどうして今に至ったのか。それを彼自身に訊く資格が、自分にはないと思った。
 平子は自分よりもほんの少し高い位置にある顔を見上げ、目を細めた。

「ずいぶんデカなったなあ」
「……」
「爺さんの跡継いで、今は自分が朽木家の当主兼六番隊隊長やねんて? あの生意気やったガキンチョが、えらい立派になったもんや」
「……話はそれだけか」
「は? って、ちょお待てや!」

 くるりと背を向けようとする彼の肩を慌てて掴めば、先ほどよりもさらに不快そうな顔で睨まれた。だが、このまま返してやるつもりはない。話したいことは山ほどあるし、今の彼をからかってみたい気持ちも強いのだ。

「まだ何かあるのか」
「相変わらずつれんやっちゃな! 感動の再会やねんから、少しは喜べや!」
「浮竹や京楽のところにでも行け。彼奴らならば喜んでくれるであろう」
「百年前から変わってへん面子には、もうとっくに挨拶すませてきたからええねん。ゆっくり話もしたしなァ」
「……」
「せやから、今はオマエと話したいんや。朽木の坊っちゃん」
「……その呼び方はやめろと申したはずだ」
「あ、せやったせやった。すまんなー、白哉坊」
「貴様……」

 ああ、懐かしい。まるで昔に戻ったかのようだ。
 あれからいろいろなことがあった。それぞれ簡単には話せないような経験もたくさんしたし、百一年という月日で、変わってしまったものも失ってしまったものも、数えきれないほどにある。
 きっと彼は自分たちに何があったのか詳しいことを知らないし、自分も彼に何があったのか毛ほども知らない。わかることがあるとすれば、彼から、よき理解者であり保護者同然の存在だった四楓院夜一と浦原喜助を、自分たちが引き離してしまったということだ。
 幼かった彼に、二人との突然の別れがどれだけの影響を及ぼしたのか。それを知る術はない。
 しかし、今の自分たちには時間がある。ゆっくり少しずつ、冗談を交えながら話をしよう。そしていずれ、彼自身の口からこの百一年間を語ってくれれば嬉しいと思う。

「五番隊で一番上等な茶ァ出したるんや、俺がええ言うまで返さんで?」
「頼んでおらぬ。……手を離せ」
「レッツゴーや!」
「っ、平子真子!」

 彼が口にした自分の名を聞いて、覚えてくれとったんか、とこっそり頬を緩めた。




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