未来を見通す力など俺にはなかったが、こうなることは予想できた。予想できた上で、あえて素知らぬふりをしていたのだ。
いつかこの幼い主が、きっと笑顔をなくしてしまうこと。心を殺して、振る舞わなければならないこと。
すべて、わかっていたはずだった。この家に生まれた以上、この子の意思や感情は、貫くことを許されぬ。
「主」
「……何用だ、千本桜」
幼少時の面影を少しだけ残し、主は強く美しく育った。今その背には、かつて主の祖父が身につけていた白い羽織がある。あれから主は、立派な死神に、立派な当主になった。
「用はない。だが、久々にこちらへ出てきたくなったのだ」
「……そうか」
それ以上、主は何も言わない。そう、主は立派な死神に、当主になっていた。誰が見ても非の打ち所がない、完璧な。
しかし俺は、その完璧の裏に隠された心を知っている。失ったものと捨て去られたものを、他の奴らは知らぬ。俺だけが主のすべてを知っている。
「今日は暑いな」
「ならばなぜ出てくる」
呆れたように呟く主に、俺は面頬の下で薄く笑った。理由なんてひとつに決まっている。
「たまにはおぬしと話していたい、白哉」
名を呼んでそう言えば、主はほんの少し目を丸くして俺を見る。その顔に幼き頃の姿が重なる。
主が心を殺す様は見ていてつらいが、俺にはどうすることもできない。ならば、俺にできることはたったひとつ。我が主に仇なす輩は、みな散らしてくれよう。それが誰であれ、主の前に立ちはだかるなら容赦はしない。俺は白哉を護る刃となる。