※緋真存命パロ





 私の兄と姉は、大層お美しく仲睦まじいご夫婦だ。お二人が並んで歩いているところを見ると、それはもう幸せそうであり、現世でいう“ラブラブ”な雰囲気を醸し出している。その上、その恵まれた容姿から、兄様と姉様はただ一緒にいるだけで、目をそらしたくなるほど絵になるのだ。
 私の袖白雪と兄様の千本桜は、多少……いや、かなり困ったところの多い二人ではあるが、とても美しく仲睦まじい斬魄刀だ。容姿も名も技も、この二人の右に出る刀はそう存在しないだろう。常に面を付けている千本桜も、その素顔はいっそ腹立たしいくらいに整っている。そしてこの二人も、ともに並んでいると幸せそうな雰囲気を漂わせているのだ。

「で?」
「今度、兄様と姉様、それから袖白雪と千本桜が、ともに出かけることになったのだ」
「……夫婦と斬魄刀でダブルデートかよ。あのリア充どもめ」
「りあじゅう?」
「……気にすんな。そんで?」
「うむ。それでだな……四人はどうやら、私も一緒にと思っているらしいのだ」
「へえ、よかったじゃねえか。何だお前、嬉しくねえのか?」
「四人が当然のように、私も一緒にと考えてくれていることは嬉しい。しかし、今回はいつもと勝手が違うのだ」
「勝手が違う?」
「今回は、兄様と姉様の結婚記念日と、袖白雪と千本桜の初めて出会った記念日のふたつを重ねた、いわゆる特別なお出かけなのだ」
「……おい、なんか後半おかしくなかったか?」
「それについては、私もよくわからぬ。何でも自分たちで勝手に作った記念日らしいが」
「斬魄刀が何やってんだよ……」

 呆れるように呟いた一護に、私は苦笑をこぼした。二人の関係を知らぬ此奴がそう思うのも、無理はない。あの二人が特別な関係で、特別な絆を持っていることを、此奴は知らぬのだ。別に教えてやっても構わないのだが、面白そうなので黙っておくことにする。

「その特別な記念日のお出かけに、部外者である私が同行するのは少し悪い気がしてな……」
「部外者って……きっと白哉や緋真さんは、そんなことちっとも思ってねえぞ。千本桜や袖白雪だってそうだ」
「それはわかるのだが、どう見てもお邪魔だろう?」
「ンなことねえって。つーか、むしろ四人は、お前に来てほしいって思ってるんじゃねーか」
「私に?」
「あの四人にとって、お前は何より特別な存在だと思うぜ」

 兄様や姉様、袖白雪や千本桜にとって、私が特別? まさか、そんな。愛されている自覚はあるが、一護の言っていることは理解できなかった。そんな私に気づいたのだろう。一護は「お前なぁ」と、ため息をついた。 

「白哉や緋真さんにとって、お前が何より特別なのは見てわかるだろ。袖白雪だって、自分の持ち主が一番に決まってる。その三人が大切に想うお前を、千本桜が何とも想わないわけねえよ」
「そう……思うか?」
「ったりめえだ。下らないことウジウジ言ってねえで、早くあっちに帰って出かける準備でもして来い」

 オラ、と少し強めに背中を押され、思わず前のめりになってしまう。普段なら何をするのだと怒鳴るところだが、今日のところは大目に見てやることにする。

「一護!」
「ん?」
「ありがとう」
「……おう」





 そしてお出かけ当日。私は兄様と姉様、そして千本桜と袖白雪とともに現世へ来ていた。これは斬魄刀二人による申し出だった。以前、千本桜と袖白雪が二人でこちらを訪れた際、いたく現世を気に入ってしまったらしいのだ。姉様も快く現世行きに賛成されたため、兄様が異を唱えることはなかった。私も現世は好きだ。尸魂界にはないものがたくさんあり、好奇心がくすぐられる。
 目的地は特になかった。五人で現世の街を物珍しそうに眺めながら、ぶらぶらと歩くだけ。そういえば井上から教わった言葉で、“ウィンドウショッピング”というものがあった。おそらくそれに近いことを私たちはしている。
 千本桜と袖白雪が時折足を止めては店を見つめ、姉様が一言「見に行きましょうか」と優しく笑う。二人は「よろしいのですか?」と目を輝かせ、姉様は兄様に一応の許可を求める。もちろん姉様に言われて、兄様が頷かないわけがない。それの繰り返しだった。

「楽しそうですね、千本桜と袖白雪」
「……やはり三人で出かけるべきだったのではないか」

 二人と一緒に店の中へ入っていく姉様の背を見つめながら、兄様が小さくこぼされた。普段の兄様からは聞くことのない、どこか拗ねたような言い方がおかしかった。姉様に関しては少しばかり子供っぽく、いや、人間らしくなる兄様が、私はとても好きだ。もちろん普段の凛とした兄様も好きだが。

「兄様も入ってきては?」
「あのような女ばかりの店、入れるものか」

 それもそうだ。今三人が入っているのは、化粧品店なのだから。
 
「千本桜は入っていますが?」
「あれがおかしいのだ」
「なら、姉様に何か選んで差し上げてはいかがですか?」
「……ルキア、余計な気遣いはいらぬ」

 え、と思わず兄様を見上げた。私を見下ろす桔梗色の瞳は、すべてを見抜いているようだった。ばれている。私が何を考えているのか。

「お前も家族だ。何を気にする」

 じわ、と目頭が熱くなった。
 ずっと気になっていた。兄様と姉様、千本桜と袖白雪。その間に入る自分は邪魔者ではないのかと。姉様の実妹で袖白雪の主だとしても、入ることのできない関係がある。だから、ともに出かけるのを躊躇った。一護に背を押されなかったら、適当に理由でもつけて断っていただろう。
 怖かったのだ。一人になるのが。そんなことあるはずがないのに。家族だとおっしゃってくださった兄様に向ける顔がない。姉様も千本桜も袖白雪も、私のことを家族だと思ってくれている。愛してくれている。わかっていたのに、何を怖がっていたのだろう。

「……私が馬鹿でした」
「否定はせぬ」

 きっぱりと断言されてしまったが、なぜか嬉しかった。ふふ、と小さく笑って、せっかくだから、と兄様の右手を引っ張る。

「私たちも入りましょう!」
「ルキア……」 

 渋る兄様に、とびっきりの笑顔を向けた。

「家族の我が儘、聞いてください」

 一瞬、虚をつかれたように兄様の目が丸くなった。その表情を浮かべさせたのが自分だと思うと、これまた嬉しくなる。今日は喜んでばかりだ。
 それとこれとは話が別だ、と抵抗する兄様に、店の中からトドメの声が飛んできた。

「白哉様、早く!」

 途端に抵抗する力の弱まった兄様に、私はとうとう吹き出してしまった。





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