九番隊副隊長兼瀞霊廷通信副編集長である檜佐木修兵は、六番隊隊長の眼前で深く頭を下げていた。

「どうか、どうかこの通りです! 瀞霊廷通信来月号の特集を、朽木隊長でやらせてください!」

 顔を上げた檜佐木の表情は必死だった。
 読者アンケート『特集してほしい隊長』で堂々の一位に輝いた六番隊隊長には、何としてでも取材を受けてもらわねばならない。読者の期待を裏切るわけにはいかないのだ。

「断る。何度も言わせるな」
「お願いします! 大勢の読者が朽木隊長の特集を望んでるんスよ!」
「知らぬ」

 だが、白哉はまったくと言っていいほど取り合ってはくれなかった。その視線はまっすぐ書類へと向けられており、檜佐木は完全に視界の外である。
 そんな二人の様子を他人事のように眺めていた恋次は、少し檜佐木を哀れに思った。自隊の隊長が取材を受けるわけないとわかっているからこそ、余計にだ。

「朽木隊長、この読者アンケートを見てください。みんな朽木隊長のことが知りたいんです!」
「生憎だが、教えることなど何ひとつない」

 スパッと言い切る様は、見ていていっそ清々しいくらいだ。用が済んだのならとっとと帰れ、と白哉の瞳が雄弁に語っている。これ以上食い下がっても白哉の気が変わりそうにないことを悟った檜佐木は、泣く泣く今日のところは引き下がることにした。

「先輩!」

 六番隊隊舎を出て、このまま昼食をとりに行こうかと考えていた檜佐木は、背後からの聞き慣れた声に足を止めて振り返る。

「阿散井……どうした?」
「俺、今から昼飯なんスよ。よかったら先輩も一緒にどうっスか?」
「あー……そうだな。俺もちょうど飯にしようかと考えてたところだ」
「じゃ、決まりっスね」

 そうして、二人は行きつけの定食屋に向かった。
 店内は昼時ということもあって混んでいたが、奥の席に見知った顔が一人で座っていることに気づき、二人は迷うことなくそちらに足を進めた。

「よっ、吉良」
「隣いいか?」
「阿散井君と檜佐木さん! どうぞ」

 吉良は二人を見て少しだけ目を丸くし、すぐに笑顔で頷いた。
 慌ただしそうに動いている店員を捕まえ、恋次と檜佐木は『本日のおすすめ定食』を頼む。すでに吉良は注文し終えていたらしく、少しすると二人の定食よりも先に運ばれてきた。次いで先程と同じ店員が、恋次と檜佐木の定食を運んできた。

「どうして二人一緒だったんですか?」
「さっきまで六番隊隊舎にいてな」

 ため息混じりに檜佐木は答えた。その顔はどことなく疲れているように見える。
 吉良は「あっ」と、気づいたように声をあげた。

「もしかして、朽木隊長に瀞霊廷通信の取材ですか?」
「……よくわかったな」
「だって三日前に飲みに行ったとき、檜佐木さん言ってたじゃないですか。朽木隊長が『特集してほしい隊長』で一位になったから、取材に行かなきゃって」
「そんなこと言ってたか、俺?」
「言ってました。取材受けてくれるか不安だ、って呟いてたでしょ」

 そうは言われても、記憶に残っていない。

「どうでした? 取材」
「どうもこうもねえよ。不安的中、まったく取り合ってくれねえ」
「はは、やっぱり」

 それは吉良の予想の範囲内だった。檜佐木にとっては笑い事では済ませられない。

「どうにかして取材を受けてもらわなねえと……。そうだ、阿散井! お前も協力しろ」
「ええ!? 俺は関係ないでしょ!」
「吉良、お前もだ」
「そ、そんな!」
「何だ、お前ら。困ってる先輩を見放すってのか!」
「「理不尽だ!」」

 二人は檜佐木と昼食をともにしたことを後悔した。





「で、どうやって朽木隊長に取材を受けてもらうんスか?」
「馬鹿野郎、朽木隊長に取材をしたって無駄なことくらいわかってるだろう」

 どうせまた相手にされないのは目に見えている。あの朽木白哉には、泣き落としだって通用しないだろう。

「じゃあどうするんです?」

 今回一番のとばっちりを食らった吉良は、うんざりした表情を隠すことなく訊いた。

「それを今考えてるんだよ」

 そう言ったきり黙り込んでしまった檜佐木を横目に、恋次と吉良も頭を悩ませた。
 それからしばらく唸っていると、恋次はあるひとつの可能性を思いつく。

「そうだ、隊長自身のことを訊かなきゃいいんスよ」
「……はァ?」
「じゃあ何を訊くっていうんだい?」

 訝しげに眉を顰める二人に、恋次はにっと得意げに笑った。

「俺に考えがある」





 定食屋を後にし、六番隊隊舎を訪れた三人は、恋次を先頭に歩を進めていた。目指すは朽木白哉のいる執務室だ。

「おい、本当に大丈夫なんだろうな」
「大丈夫っス」

 その自信はいったいどこからくるのだろう。
 檜佐木と吉良は顔を見合せ、前を歩く恋次の背を困惑気味に見つめた。
 執務室に着くと、恋次は一声かけて入室許可を得てから扉を開く。白哉は先程と変わらず、書類と向き合っていた。

「朽木隊長、お願いがあるんです」
「取材は断ると、私は何度も申したはずだ」
「や、違うんス。今度は隊長の取材じゃなくて、わかめ大使の取材をしたいらしくて」
((えええええ!?))
「……何?」

 ぴく、と白哉が反応した。恋次は大きく首を縦に振る。

「わかめ大使、あれ裏で人気みたいっスよ。だからその生みの親である隊長に、いろいろ訊きたいことがあるそうです。そうっスよね、先輩」
「え、あ、そうです! そうなんですよ、実は!」
「三番隊でも人気だって言ってたよな、吉良」
「そ、そそそうだね! すっごく人気ですよ、朽木隊長!」
「……」

 二人は話を振られるがまま、適当に相槌を打ってこくこくと頷く。これで本当に大丈夫なのか、と内心で思うが、筆を止めて考え込む白哉を見れば、多少なりとも効果はあるのだろう。

(こんなんでイケんのか!?)
(っていうか、わかめ大使って何なの!?)
(落ち着けって、二人とも)

 小声でボソボソと話し合う三人。
 白哉は相変わらず悩んでいるようだったが、決心がついたのか、ゆっくり顔を上げ、「よかろう」と一言呟いた。

「わかめ大使のためならば、その取材とやらを受けてやる」
((え゛!?))
「さっすが隊長! よかったっスね、先輩」
「あ……そ、そうだな。ありがとうございます、朽木隊長」
「構わぬ」
「それでその……わかめ大使ってのは?」

 恐る恐る問いかけると、白哉は懐から一枚の紙を取り出した。すっと優雅な手つきで机に置かれたその紙には、白哉と恋次のいう“わかめ大使”が描かれていた。
 檜佐木と吉良は、思わず言葉をなくしてしまった。

(こ、これがわかめ大使……だと……?)
(うわー……僕、これ見たことあるよ)
(四大貴族の美的センス恐るべし……!)
(朽木隊長を見る目が変わりそうだよ……)

 唖然とする二人に、日頃の苦労を少しだけ理解してもらえた恋次だった。

「では、取材とやらを始めろ」
((いやいやいや! これで何を訊けばいいんだ!?))

 さあ、来月号の特集はいったい何になるのだろうか。




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