「お前たち、このようなところで何をしている?」

 六番隊隊舎を出た後、すぐさま灰猫と飛梅を見つけた千本桜は、彼女たちの背後へ音もなく現れた。二人は突然のことに、びくう、と肩を跳ね上がらせるが、千本桜の姿を確認した途端に顔を輝かせた。

「ラッキー! 探しに行く手間が省けたわね」
「ここに来て正解でしたね」
「何の話だ? 俺に用でもあるのか」

 二人が六番隊隊舎へと向かっていた理由が自分だと気づき、千本桜は面頬の下で眉を寄せる。
 はっきり言って、いい予感はしない。むしろ背筋が寒いくらいだ。

「そっ、アンタに用があんのよねぇ」

 ちらり、と一瞬、灰猫と飛梅の視線が合わさった。それが合図だ。二人は同時に地を蹴り、千本桜を挟み込む。そして、懐から素早くカメラを取り出した。

「おい、何の真似だ?」
「いいからジッとしてなさいよ」
「動かないでください」

 二人は同時にパシャリとシャッターを切る。予想していたよりずっと大人しい千本桜に、二人は首を傾げつつもさらにシャッターを押した。

「何をしている?」
「何って、写真を撮ってる……え?」
「まさか、カメラをご存知ないんですか?」
「かめら……亀の種類のような名だ」

 とんちんかんなことを言う千本桜にポカンとする灰猫と飛梅。これで本人は至って真面目なのだから笑えない。

「“かめら”とは、写真機のことなのか?」
「今さら!?」
「では、お前たちは俺の写真を撮っていたのか」
「遅いですよ!」

 すかさずツッコミを入れながら、実は千本桜ってかなり天然……? と、びっくりする二人だ。

「しかし、なぜ俺の写真など……」
「そりゃあ今度の写真集に使うため……」
「灰猫!」

 飛梅の制止に、しまった、と灰猫が慌てて口を閉じる。だが、時すでに遅し。ばっちりと聞かれてしまっていた。千本桜の雰囲気が剣呑なものに変わる。

「どういうことだ」
「まっ、バレちゃしょうがないわよね。女性死神協会が今度発売する写真集のためなのよ」
「写真集?」
「斬魄刀と持ち主の主従写真集を出すそうです」
「斬魄刀と……持ち主!?」

 千本桜の持ち主は白哉。今二人がこうして自分に接触してきたということは、その白哉にも誰かしら接触を試みているのかもしれない。
 あの白哉だ。写真集など言語道断だろう。以前に一度発売されたらしいが、本人の同意はこれっぽちもなかったと聞いている。こうしてはいられない。

「くっ……貴様ら! 毎度毎度、白哉を困らせるようなことばかり! この借りはしっかり返してやるぞ!」
「は!? ちょ、アンタ、どこ行くのよ!」
「白哉のもとに決まっているだろう! 貴様らの好きにはさせぬ!」
「そうはいきません! 私だって桃さんに喜んでほしいんですもの!」

 飛梅が勢いよく炎の球を繰り出した。千本桜は頭上に跳び上がり回避するが、灰猫がそこへ追撃する。

「逃がさないわよ、唸れ!」
「ふん、貴様ら程度が俺を足止めできると思うな!」

 灰猫の攻撃も上手く避け、千本桜は白哉のいる六番隊隊舎へ戻ろうとした。そのときだ。

「霜天に坐せ」
「!」

 凛と響いた声とともに氷の竜が眼前へ現れ、唸り声のようなものを上げ襲いかかってきた。目を見開くが、千本桜もすぐさま唱える。

「散れ」

 氷の竜と桜の刃が激突し、耳をつんざくような激しい衝撃音が鼓膜を震わせる。一瞬の静寂の後、氷の竜は砕け散り、桜の刃はあたりに拡散した。しかし、それだけでは終わらない。

「刈れ!」

 刃の迫る感覚。千本桜は掌をさっと突き出し、拡散していた刃を集めた。刹那、桜の刃でつくられた壁を貫こうと、刀が力強く振り下ろされる。

「……野郎ッ!」

 しかし、千本桜の刃はそう簡単には破れない。チッと舌打ちの音とともに刀が離れ、距離を置いたのがわかった。新たな邪魔者に千本桜が舌打ちをしたい心境だ。

「貴様らも俺の邪魔をするか……!」
「ハッ! 頼まれちまったんじゃあ、仕方ねえだろ?」
「我が主のためだ。許せ」

 氷輪丸と風死。何もかもまったく正反対の二人がともに現れたことに眉をひそめつつ、千本桜は面頬の下で眼光を鋭くする。

「まさか、貴様らまで奴らの味方か」
「味方っつーんじゃねえよ。頼まれたから引き受けてやっただけだ。いいヒマ潰しになるしなぁ」
「我は主の副官に頼まれた。もし我が千本桜の写真集作成に協力すれば、主の嫌がる写真を数枚、載せるのを止めるからと」
「……俺の前から今すぐ失せろ」

 二人の言い分に頭が痛くなる。風死の都合も氷輪丸の都合も、今の千本桜には取るに足らない些細なことだ。早く白哉のもとへ向かわなければならない。だがさすがの千本桜でも、隊長格の斬魄刀四人を捩じ伏せることはできないだろう。

「さっ、大人しく撮られなさいよ」
「ふざけるな」

 四人が自分の写真を欲していることはわかったが、千本桜もそう簡単に撮られてやる気はなかった。

「アンタがその仮面の下を撮らしてくれれば、あたしたちは引き上げんのよ」
「……は?」

 灰猫のいう仮面の下で、千本桜は目を瞬かせる。なぜ仮面の下なのだろうか。

「……わけがわからん」
「だってアンタ、いっつもその仮面つけてるじゃない。気になるのよねぇ、素顔」
「写真集に仮面姿だけだなんて、おかしいとは思いませんか?」
「おかしいのは貴様らだ」

 怒りやら呆れやらが混じり合い、何も言えなくなる。そもそも写真集を発売するのは決定なのか。
 黙って千本桜は四人に背を向けた。

「くだらぬ。誰が外すか」
「まぁ、そう簡単にはいかないわよねぇ」
「実力行使です!」

 飛梅の声にニヤリと笑い、灰猫は千本桜へと飛びかかる。

「絶対に外してやるんだから!」
「ッ! その決意をもっと違うことに向けろ!」

 灰猫の気迫に一瞬たじろぐが、こちらもそうやすやすと面頬を外されてはたまらない。灰猫を避けると、千本桜は地を割る勢いの瞬歩で四人の前から姿を消した。

「逃げちまったぜ」
「ですね」
「追うか」
「もちろん。絶対逃がさないわよ」

 千本桜の姿が見えなくなった方向を見つめていた四人は、いっせいにその後を追い出した。


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