「主、そろそろ休憩にしてはどうだ」
「問題ない」

 六番隊隊首室。
 そこでは、今回女性死神協会のターゲットでもあり、被害者第一位といっても過言ではない六番隊隊長である朽木白哉が、書類をさらさらと書き上げていた。そのすぐ傍らには彼の斬魄刀、千本桜の姿もある。

「あまり根を詰めるのはよくない。茶を淹れよう」
「必要ない」
「……主」

 なかなか首を縦に振らない頑固な主に、千本桜は咎めるような困ったような声を出す。ちらりと視線だけを千本桜に向けた白哉は、ぴたりと合ってしまった瞳に小さくため息をついた。

「主」
「……わかった。少し休む」

 そう言うと、喜色の滲む声色で「茶を淹れてくる」と返された。千本桜の出て行った扉を見つめ、もう一度白哉はため息をつく。
 二人以外誰もいないその部屋では、千本桜も面頬を外していた。彼の澄んだ蒼い瞳は、ときに白哉を惑わせる。なぜか、昔の幼い自分を思い出してしまうのだ。そのせいだろうか。あの瞳に見られると、どうも自分は弱い気がする。それに――ほんの少しだけだが、素直になれる気もするのだ。

「主?」

 不思議そうな千本桜の声に呼び戻され、ふっと我に返る。ことりと机に置かれた湯呑みから、芳ばしい緑茶の香りがした。

「……いや、何でもない」
「ならいいが」

 白哉は筆を置き、茶を一口啜った。優しく暖かい緑茶が体中に染み渡り、疲れが和らぐ。熱すぎず、ぬるくもなく、ちょうどよい温かさ。

「お前は茶を淹れるのが上手いな」
「そうか?」
「ああ」
「主が満足してくれたのなら、俺はそれでじゅうぶんだ」

 ふんわりと柔らかい雰囲気が二人の間に流れる。しかし安らかな一時とは、そう長く続かないものだ。

「……この霊圧」
「灰猫と飛梅だな」
「なぜこちらへ近づいて来る」
「わからぬ。俺が少し見てこよう」
「面倒なことになる前に追い返せ」
「御意」

 外していた面頬をつけ、千本桜は瞬歩で六番隊隊首室を後にする。一人になった白哉は、嫌な予感がひしひしとする中でもう一口茶を啜った。


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