風呂から上がり、もうずいぶん時間が経つというのに、音也は上半身に何も着ていなかった。肩にバスタオルをかけたままコーラを飲み、雑誌を開いている彼に、トキヤは呆れた視線を向ける。
 まったくもってだらしがない。そう言いたげなトキヤの目に気づかぬまま、音也は雑誌のページをめくりながら、コーラを煽った。

「音也、いい加減にそろそろ上を着なさい」
「えー、だって暑いもん」
「だらしないですよ」
「別に外じゃないし、この部屋にはトキヤしかいないからいーじゃん」
「ダメです、着なさい。風邪を引くでしょう」
「……トキヤのケチ」

 ブーブーと文句を垂れつつも、音也は素直に従った。もしも同じことをトキヤ以外の、例えば翔やレンが言ってきたとしたら、果たして自分は素直に従っただろうか、とぼんやり考える。
 あの二人じゃなくて、那月やマサの言うことなら聞いたかも、と、前者二人に失礼なことを思いながら、音也は一人うんうんと頷いた。
 いや、でもそれ以前に、こんな説教臭いことを言うのはトキヤぐらいだろうと考え直す。この学園で過ごすようになって半年以上が経つけれど、トキヤ以外の人間からはほとんど説教などされた覚えがなかった(先生たちは別だ)。だが、それを煩わしく感じたことはない。自分のことを思ってくれているからこそだと、音也は理解している。もしどうでもよければ、何も言わずに放っておけばよいのだから。

「トキヤってさ、たまにお母さんみたいだよね」
「誰が母親ですか」
「今だって、だらしないのもあるだろうけど、風邪を引かないようにって、俺のこと心配して言ってくれたんだもんね」
「……別に、心配しているわけではありません。あなたが風邪を引くと、同室の私も困るんです」
「へへっ、ありがと、トキヤ!」
「話を聞きなさい!」

 怒鳴るトキヤを笑顔でかわし、音也はバスタオルをポイッとベッドに放り投げた。もちろんトキヤの、「使用したバスタオルは洗濯機に入れなさい!」という台詞が飛んでくることをわかっていながらである。





──────────
伝わってるよ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -