夜空に浮かぶ輝きを疎ましがっていたのは、どれくらい前のことだろうか。
懐かしい記憶だ。ブルックリンの悪魔として、人々に恐れられていた昔。あのときは、夜の街から見上げる無数の星が憎くて仕方なかった。降り注ぐ光が眩しすぎて、自分たちにはあまりにも不似合いすぎて。いつの頃からか、星そのものが嫌いになっていた。
「そんなところにいては、風邪を引くぞ」
「……キッド。お前、部屋に戻ったんじゃなかったのか?」
「それが、眠れなくてな」
あたしに風邪を引くぞと忠告しておきながら、風呂上がりにも関わらず、キッドはテラスへと出てきた。すっと音もなく隣に並んだ自分の職人を見下ろし、そういえば、と思い出す。
(コイツに出会ってから、なんだよなあ)
あんなに疎ましくて憎くて大嫌いだった星を、笑顔で見上げられるようになったのは。
星だけじゃない。世界のすべてが濁って見えていたあの頃からは想像もできないほど、今はすべてが澄んで見える。どれもこれも、ぜんぶキッドに出会ってから変わった。
「あ、キッド君とお姉ちゃん発見!」
部屋の中から、愛しい妹の声が聞こえた。キッドと同じタイミングで後ろを振り返ると、人差し指をこっちに向けるパティの姿。
「二人ともいないから探したんだぞー!」
頬を膨らませるパティを見て、あたしとキッドは顔を見合わせて小さく笑った。
「何してたの〜?」
不思議そうに首を傾げながら、パティもテラスへ出てきた。風邪、引かないといいけど。
「そうだ。お前、何をしていたんだ?」
キッドに問われて、自分でも一瞬、何をしていたのか思い出せなかった。あ、そうだ。
「星を見てたんだ」
「星?」
「ほら、冬は星が綺麗に見えるだろ?」
「それはそうだが……部屋の中から見ればいいじゃないか」
「そだよ、お姉ちゃん。寒いじゃん」
うん、確かに寒い。わざわざテラスに出る必要は、なかったのかもしれない。でも、ここでなら、この冷たい空気でさえ嫌いじゃないから。
「いいんだよ」
「?」
「変なお姉ちゃーん」
「ははっ、二人も見てみなよ。すっげえ綺麗だぞ」
素直に夜空を見上げる二人が愛しい。今のあたしにとっては、この二人が眩しくて大好きな星なんだ。死神が星だなんて、それこそ不似合いで笑っちまいそうになるけど、キッドならそれもありだろう。なんてったってこの死神は、あたしら姉妹を救ってくれた光なんだから。
三人で見上げた今夜の星は、今まで見た中で一番綺麗に輝いていた。
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星空は輝く