「はぁ……」

 窓から見える青い空も、宙を飛んでいる白い鳥も、何もかもが鬱陶しくて、僕は小さくため息をついた。

「柊しゃま、ため息をつくと幸せが逃げちゃうんですよ!」
「……くだらない」

 僕の部屋で静かに絵を描いていたクロミが、色鉛筆を持ったまま抗議してくる。その言い分は子供のような、本当にくだらないものだった。

「で、でも! クロミは、柊しゃまから幸せが逃げちゃうのは嫌です!」
「心配いらない。僕は幸せなんて感じないから、逃げていくものがない」
「柊しゃま……」

 まるで僕の代わりのように、クロミがしゅんと項垂れる。
 わからない。どうして僕が幸せを感じないだけで、クロミがそんなに悲しそうな顔をするのだろう。

「お前にはあるのか?」
「え?」
「……幸せ」

 そう訊けば、クロミは急に顔を赤らめて、大きく何度も首を縦に振る。

「何だ?」
「ひ、ひひ柊しゃまのお傍にいることでしゅ!」

 思わずクロミへと顔を向けた。
 何だろう。よくわからないけど、不思議な気持ちだ。だって僕は、大抵他人を不幸にする立場の人間だと思っていたから。

「そんなことが、お前の幸せか?」
「そんなことじゃありません! クロミにとっては、すっごーく大切なことです!」

 必死に僕へと訴えかける様子は、その言葉が偽りのないものだと教えてくれる。

「……馬鹿だな」

 僕は、傷つける側の人間なのに。
 だけどクロミがそう言うんなら、僕も少しは他人を幸せにすることができる人間なのかな、とほんの少し嬉しく思った。





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シアワセのカタチ

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