「春はまだ遠いな」
私の隣で熱いお茶を啜りながら、彼は言った。ずいぶん前から、外では雪が降っている。
「そうですね」
「……寒くて適わん」
ほうっ、と息を吐き出した彼を見て、確かに普通の人には苦しい季節だと思った。氷雪系の斬魄刀である自分には、あまり理解できない苦しさだけれど。
「早く春になるといいですね」
そうは言ったものの、私自身は冬でもまったく問題はない。むしろ四季の中では一番過ごしやすい季節だ。けれど、そんなことは関係ない。彼の一番好きな季節が、私にとっても一番の季節なのだから。
「……そうでもない」
「え?」
「寒くて適わぬのは事実だが、冬は嫌いではない」
意外だった。彼は主に似て、暑さよりも寒さに弱い人なのに。
以前に、「春が一番過ごしやすい」と、そう言っていたことも覚えている。しかし次の彼の言葉は、さらに私を驚かせた。
「春が一番過ごしやすい季節だと思うが、俺の一番好きな季節は冬だな」
何の嘘だろうか、これは。
「まさか」
「本当だ。信じられぬか?」
「ええ」
「……では、お前の一番好きな季節は?」
問い返されて、私はほんの少し悩んだ。もし今さっきの会話がなければ、春であるとはっきり言えたはずだった。彼が突然、冬が一番好きだなんて言い出すから、どう答えるべきなのか迷ってしまったのだ。過ごしやすい季節は冬でも、一番好きな季節は、彼が一番好きだろうと予想していた春なのに。まさか冬が好きだったなんて。
しかし、私の答えは変わらなかった。
「春です」
たとえ彼の一番好きな季節が冬でも、私の一番好きな季節は春だ。
「冬ではないのか?」
「ええ」
「……意外だな」
それは私の台詞です、と心の内でこっそり苦笑する。
「知らなかった」
「私もです。……景厳様はなぜ、冬が一番好きなのですか?」
すると彼は、まっすぐに私を見つめ、真剣な顔で言う。
「冬は、お前の季節だからだ」
それは、私が春を一番好きな理由と同じだった。
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単純明快