神様というものは、この尸魂界でも存在するのだろうか。ふと、そんなことを思った。
神という存在を信じ、彼ら死神も信仰心を抱くのだろうか。
「なぁ、お前ら死神も“神様”って信じてんのか?」
「神?」
「そう、カミサマ」
問われた死神は、一瞬だけ悩むように眉間へ皺を寄せるが、すぐに普段と変わらぬ無表情に戻った。これがただの無表情ではなく、感情を押し殺すことに慣れてしまったからなのだと知ったのは、もうかなり前になる。それだけ自分と彼らの付き合いは、いつの間にか長いものになっていた。
「笑止。我ら死神が神などという曖昧な存在を信じるとでも?」
「そっか、やっぱ信じてねーか」
「当然だ。むしろ兄ら人間から見れば、死神も一種の神ではないのか」
「ああ、まあそうだな。……死の神様だけど」
神様のように信仰されることは決してないけれど、確かに死神も神様といえば神様だ。自分も彼らに会うまではそう考えていた。もちろん、今では微塵も思っていない。なんせイメージしていた死神と実際の死神が、まったく重ならなかったのだから。
はっきり言って彼らには、“死を司る神”という表現は少し大袈裟すぎる。緩い死神も自由な死神も子供っぽい死神も優しい死神も、自分はたくさん知っている。いったい誰がそんな彼らを、死神だと思うだろうか。
「でもさ、死神だって生きてんだから、何かに縋りたいと思うことはあるだろ?」
そこで人間が縋るのが、神という存在なのだ。
「愚かな。人間と死神を同一視するな」
「でもよ……」
「少なくとも」
続けようとした言葉を遮るように、彼は些か強く言った。
「私は神を信じておらぬ」
まっすぐな視線をこちらに向けて、目の前の死神は断言した。その瞳に映るのは、冷たい光と失望と。果たしてそれが何に対する失望なのかは到底わからないが。
「仮に神がいたとして、手を合わせれば願いは叶うのか」
「……」
「叶わぬではないか」
そこで初めて、その端正な顔がわずかに歪んでいることに気づいた。
ああ、彼も神に祈ったことがあるのだろうか。その願いが叶わなかったから、こんな顔をするのだろうか。
「神様ってのは、死神より残酷な生き物なんだな、きっと」
思ったままを口にして、瞼を伏せた。
ーー違いない。
そう小さく呟いた死神の、白哉の声は、ほんの少しだけ自嘲気味に揺れていた。
──────────
世界で一番残酷なのは