懐かしい夢を見た。今よりずっと昔の、遠い遠い過去の夢。

『そうか、白哉は死神になりたいんだね』
『はい! 父様や爺様のような立派な死神になってみせます』
『それは頼もしい。なら、まずは海燕を倒せるようにならなくてはね』
『彼奴などすぐに倒してみせます!』
『はは、楽しみだ。では海燕を倒したら、次は私の相手をしてもらおうかな』
『父様の……?』
『どうだい、白哉。私も倒せそうか?』
『も、もちろんです……! 私の目標は、父様と爺様を越えることですから!』
『その言葉に二言はないね?』
『当然です!』
『ふふ、よろしい。……白哉なら絶対にできるよ』
『……そうでしょうか……?』
『ああ。――お前は、私の息子なのだから』
『! はいっ!』





 うっすらと瞼を上げて、白哉は視線だけを動かした。
 清潔感のあふれる、白い天井と白い壁。そして大きな窓がひとつ。
 ぼやける視界でそれらを確認し、白哉は己が四番隊の救護詰所にいるのだと気がついた。

「ああ、そうか……」

 自分はルキアを庇って、重傷を負ったのだった。そう思い出した途端、全身に鋭い痛みが走り、白哉はわずかに眉を顰めた。体を起こしたいのだが、まだひどく全身が重たく、思うように動かせない。
 窓から見える外は薄暗く、夜明けまではもう少し時間がかかりそうだった。
 しかし、こうして痛みを感じるということは、どうやら自分は生きているらしい。
 つくづく運のいいことだ、と白哉は自嘲した。どうせなら、このまま目覚めなければよかったのに。
 黄昏の中、自分はルキアにすべてを告白し、もう思い残すことなどなかったのだ。結局自分は、妻との約束も両親への誓いも、護れなかったのだから。生きようが死のうが、どちらでも構わなかった。しかし、こうして生きている以上、自分にはまだすべきことがあるのだろう。
 それは何だ……?
 白哉は自らに問いかける。答えは、思っていたよりもずっと早く見つかった。

「緋真との約束を護ること……」

 単純明解な答えであった。しかし、その単純明解な答えこそが、白哉にとっては何より大切な答えなのだ。

「父上は、緋真との約束を選ぶ私を……許してくださるだろうか……」

 夢の中で見た、己とよく似た顔を思い出す。きっと、父上ならば笑って許してくれるだろうと、白哉は思った。
 とても、優しい人だったから。掟よりも大切なものがあると、わかっていた人だったから。

「……私は、まだ死ぬわけにはいかぬ」

 強く拳を握りしめ、白哉はゆっくりと目を閉じる。瞼の裏で、笑う父と妻の姿を見た気がした。




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夢見誓い

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