「暑い……」
「暑いな」
「暑いですね」
ルキアの私室でぐったりと、仰向けに川の字で寝転んでいる三人。はあぁ、と同時についたため息が、広い部屋に大きく響く。
普段とは違い、だらしない空気が三人を包んでいた。
「この暑さは何なのだ……」
「溶けてしまいそうです……」
千本桜と袖白雪の言葉に、ルキアは返す気力もなかった。現世の“地球温暖化”というやつが原因だろうか、と回らない頭で考える。それにしても、暑い。
「私は冬の方が好きだ……」
「……私もです」
「春が一番過ごしやすい」
好む季節は少なからず、その能力の影響を受けているようだ。夏だけは勘弁してほしいという三人の意見は一致したが。
「これなら真冬に襦袢一枚でいる方が耐えられる」
ボソリ、とルキアがとんでもないことを呟いた。千本桜にはそれも理解しがたい。
やはり春が一番、そう思ってもう一度ため息をついた千本桜は、隣から危ない発言を聞いた。
「そうですね……それが一番の解決策」
「は?」
「え?」
何を言い出すのだろうか、袖白雪は。
二人は同時に間抜けな声を出し、真ん中で寝転んでいる袖白雪に顔を向けた。とてつもなく嫌な予感がする。
「夏よりは冬の方がよろしいでしょう?」
「ま、待て袖白雪……」
「まさか……」
「この部屋を真冬にいたしてみせましょう……!」
「「止めろーッ!!」」
ぶわっと嫌な汗が吹き出る。二人は飛び起き、上体を起こした袖白雪を必死で止めようとした。
そんなことが使用人、そして当主である白哉に知れたらどんな騒ぎになるか、と顔を青ざめる二人。この中で一番暑さに疲弊しているのは彼女だが、こればかりは止めなければ後々大変なことになる。
「落ち着け、袖白雪! 確かに暑いがそれはならぬ!」
「そもそもここを誰の部屋だと思っている! 私の部屋だぞ!」
「初の舞、月白!」
「「白雪いいいい!」」
二人による必死の制止も虚しく、袖白雪は見事にルキアの部屋を真冬に変えてしまった。先程とは打って変わって気温の低くなった部屋。袖白雪は氷に覆われた周囲を満足そうに見渡し、千本桜とルキアは体をぶるりと震わせた。
「涼しくなりましたね」
「寒いわ、たわけ!」
「どうするのだ……これが主に知れたら――」
「私に知れたら、何だ」
――ビシッ。
千本桜とルキアが凍りついた。無論、この部屋の寒さのせいではない。
「……」
一歩入室した白哉は、無言で部屋をぐるりと見渡した。
「……三人とも、そこに直れ」
部屋の気温がまた5度ほど低くなった気がするのは、果たしてただの錯覚だろうか。
氷が張ってキンキンに冷えた畳の上での正座はきつく、千本桜とルキアは平気な顔をしている袖白雪に恨めしげな視線を向けた。なぜ白哉が平然と正座しているのかがわからない。もっとも彼は、銀白風花紗や手甲といった装飾品のおかげで、二人よりは防寒に優れた格好をしているのだが。
「言い訳があるならば訊く」
その言葉に、千本桜とルキアは急激に冴えた頭をフル回転させた。七月のある昼下がり、真冬での説教が始まる――。
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真夏の凍死