朽木白哉が六番隊隊長に任命されたのは、今からもう何十年も前のことだ。あの朽木家当主が隊長職に着いたという噂は瞬く間に広がり、一年も満たぬうちに、彼は護廷十三隊の十三人いる隊長格の中でもっとも有名な死神となった。
今日は、そんな朽木隊長のちょうど五十年目の隊長就任記念日である。
『おめでとうございます、朽木隊長!』
出廷して早々、白哉は執務室の扉を開き驚愕した。何人もの席官たちが、笑顔で自分に祝いの言葉を述べるのだ。
果たして今日は何の日であったか、白哉は頭をひねらせる。誕生日はとっくに過ぎていたし、その日はその日で祝われた。特に思い当たる節がない。
「……今日は何か特別な日であったか」
執務室に足を踏み入れ、隊士たちの顔を見渡しながら尋ねる。すると彼らは、「やっぱり!」というような表情をして、笑って答えた。
「覚えてないと思いました」
「今日は朽木隊長の、五十年目の隊長就任記念日ですよ」
言われて目を丸くする。そんなものすっかり忘れていた。聞かされてもまだぴんとこない。
長い年月を生きる死神にとって記念日などという曖昧なものは、あっという間に記憶の隅に置き去りにされてしまうのだ。
「そうか……今日で五十年目か」
当人である自分ですら覚えていなかったのに、よく知っていたものだと、白哉は感心した。中には白哉が隊長に就任した当時、姿のなかった者もいる。
「よく知っていたな」
「もちろんです。朽木隊長の隊長就任記念日の日のことを忘れるわけがありません」
一人の男性隊士が前に出て言った。白哉より少し年上の男だ。
「朽木銀嶺隊長や朽木蒼純副隊長の影が見えました」
懐かしむように男性隊士は目を細めた。
威厳ある隊首羽織をまとった姿は銀嶺に、その瓜二つの容姿は蒼純に。とてもよく似ていた。
「俺は朽木隊長が隊長に就任した当時、六番隊じゃなかったんですけど、記録を拝見したもんで」
ヘラリと緩い笑みを浮かべた若い隊士が言う。
「今じゃあ上位席官は、ほとんどの奴が知ってますよ」
「……」
「何はともあれ、隊長就任五十年目おめでとうございます!」
『おめでとうございます!!』
再び祝いの言葉をかけられ、白哉は内心で苦笑した。理由やきっかけはどうであれ、やはりこのような日までしっかり覚えられているとくすぐったい気がする。だが、嫌ではなかった。
「……六番隊の名に恥じぬよう、これからも精進せよ」
それは、この先もついてこいという白哉なりの言い方だった。
彼らは胸を張り、声を合わせて返事を返す。
『はい、朽木隊長!!』
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