「ったく……どこ行っちまったんだ、あの人」
斬魄刀反乱事件が終結してから三日。
卯ノ花に逆らえぬ笑顔で頼まれ、恋次は白哉を探して瀞霊廷の外れまで来ていた。まだ響河との戦いによる傷が癒えていない白哉は、四番隊で一週間の安静を言い渡されていたのだ。しかし当人はといえば、こっそりと綜合救護詰所を抜け出す始末である。
「朽木隊長? いませんかぁ? つーか、あの人気配消すの上手すぎるんだよ……」
そもそも本当に白哉がここにいるのか。恋次は不安でならない。卯ノ花が言うには、こちらからわずかに白哉の霊圧を感じ取れるらしいのだが、すでに恋次がここへ来て半刻が過ぎてしまっていた。もう白哉は帰っているかもしれない。
「しゃあねえ……いったん戻るか」
「どこへだ」
突然響いた声に、びくう、と肩を跳ね上がらせ、恋次は背後を振り返った。少し離れた先から、白哉がこちらへ歩いてきているのが見える。
「朽木隊長! 俺、すっげえ探してたんですよ」
「隊で何かあったのか」
真面目に言われて、恋次は頭をポリポリと掻きながらため息をついた。
「隊長、自分が怪我人だってこと忘れてません?」
「傷は塞がっている。問題ない」
「いやいや、問題あるから。一週間安静を言い渡されて、まだ三日しか経ってませんけど」
「……」
白哉は眉をしかめ、そっぽを向く。恋次の言葉が正しいということは、本人もわかっているのだ。
「卯ノ花隊長に連れ戻すよう頼まれたんです。見舞いに来てたルキアや浮竹隊長たちも心配してましたよ」
「……大袈裟な。少し病室を出ただけではないか」
「安静を言い渡された人が病室からいなくなってんのに、心配しない方がおかしいっス」
「それが大袈裟だと言っている」
不機嫌さをにじませながら言って、白哉はすっと瞼を伏せた。
「みんな、隊長がいなくなることに敏感になってるんですよ。……もちろん、俺だって」
その言葉の意味に気づけぬほど、白哉は鈍くなかった。瞼を開けて、まっすぐに恋次を見やる。恋次の目は真剣だった。
「隊長がまた一人で何か抱え込んでいなくならねえか、心配になるのは当然のことじゃないっスか」
斬魄刀反乱事件で、白哉はたった一人、すべてを終わらせるために動いていた。行方不明になったかと思えば裏切り者として自分たちの前に現れ、刀を交えたことは記憶に新しい。元凶である朽木響河の封印場所を見つけるため、死神側を裏切ったように見せかけて斬魄刀側についていた白哉を、いったいどれだけ心配したことだろうか。
こんなことがあった後で、心配するなと言う方が難しい。ルキアや浮竹が白哉を心配するのは、当然のことだった。
「……心配、か」
小さく呟き、白哉はその言葉を反芻する。それはとても、温かいものに感じられた。
「そういえば隊長、こんなとこまで何しに来てたんスか?」
「……特に理由はない。ただ少し、一人になりたかった」
独り言のように返された言葉の意味はわからなかったが、下ろされた黒髪から覗く表情は、どこか儚げに恋次の瞳には映った。
「朽木隊長……」
「案ずるな。もう戻る」
すっと恋次に背を向けて、白哉は一人歩き出した。ようやく綜合救護詰所へと戻ってくれるようだ。
恋次は慌てて白哉の一歩後ろについた。
「隊長。もう、勝手に一人でいなくなんねえでくださいよ」
「……」
「みんな、あんたのことを待ってるんスから」
少しの沈黙の後、白哉は足を止めることなく背中を向けたまま返した。
「――ああ」
その一言だけで、恋次は満足だった。
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キミ待チ