縁側に腰かけ、ただぼんやりと庭を眺めていた。後、私はどれだけの時間をここですごせるのだろうか。あの温かな、愛しい人の隣で。

「白哉様……」

 その名を口にしたくなり、私はその人の綺麗な横顔を思い浮かべながら呟いた。
 この愛しい名も、後何度呼ぶことができるのだろうか。そう思うと急に寒気がし、肩が震えた。
 呼ばなくちゃ。今、こうしてその名を呼べるうちに。

「白哉様……白哉様……」

 言葉を発することができなくなろうとも、その名だけはいつまでも音にしたい。

「白哉様……」

 呼べば呼ぶほど、愛しさが募っていく。初めて名をお聞きしたときから何十、何百と思ったことだけれど、本当に綺麗な名前だ。

「白哉、様」
「何だ?」

 突然背後から抱き竦められ、私はびくり、と肩を揺らした。

「びゃ、白哉様……! お帰りなさいませ」
「ああ、今帰った」
「……あ、あの……どうかなされましたか……?」
「どうか、とは?」
「その……急にこのようなことをなさるから」
「お前が私の名を何度も呼ぶからだ」
「!」

 すべて聞かれていたのだと気づき、私の頬は途端に熱を帯びる。けれど、それも先程の考えを思い出してしまえば、簡単に治まってしまった。

「緋真」
「……はい」
「緋真」
「……はい」
「緋真」
「……白哉様?」

 私の名前を呼ぶだけで他は何も言おうとしない白哉様のおかしな様子に、私は首を傾けた。お顔をうかがおうとしてもきつく抱き竦められているため、後ろを振り返ることができない。

「あの、白哉様……」
「呼べ」
「え?」
「お前も、私の名を」

 その言葉にはっとする。この人は、気づいていたのだ。
 私が何を思い、その名を呼んでいたのかを。

「白哉様……」
「聞こえぬ」
「白哉様……」
「もっとだ」
「白哉様っ……」
「緋真」

 さらにきつく抱き竦められた私の体は、小刻みに震えていた。

「白哉様」
「緋真」

 私と白哉様は、ただ互いの名前を呼び続ける。
 いずれ私の音は絶え、白哉様の音も私の耳には届かなくなってしまうけれど――それでも。白哉様の内にも私の内にも決して絶えない音があるのだと、私は自惚れた確信を持った。




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響かぬ永久の音

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