「まったく……こんな日に外へ出るからだ」

 呆れたように千本桜は咎めた。背負った体はひんやりとしているが、やはり常と比べればずいぶんと熱い。

「ただでさえお前は暑さに弱いのだ。このような日差しの強い日には気をつけろと、俺は何度も注意したはずだが」
「……申し訳ありません」

 しょんぼりと気落ちした様子の袖白雪には、さすがの千本桜も少々戸惑った。言いすぎたか、と暑さとはまた別の汗を流し、首を回して背後を見やる。

「い、いや……わかったならばそれでいい」
「……はい」

 やはり袖白雪は気落ちしたままである。千本桜は面頬の下で軽く吐息をつき、一度袖白雪を背負い直した。
 普段は強気の彼女がこうも弱気になっているのは、この暑さのせいでもあるのだろう。きっと暑さにやられ倒れてしまった自分を、不甲斐なく思っているに違いない。

「お前は暑さに弱い故、致し方ないことではあるがな」

 フォローのつもりで言ってみたのだが、袖白雪の反応はない。
 何だろう、胸の内がモヤモヤする。
 千本桜は、考えても仕方がないと、袖白雪を支える腕に力を込めて一気に跳躍した。これには袖白雪も驚愕の声を上げる。

「か、景厳様!?」
「掴まっていろ」
「どこへ向かわれているのですか!?」
「湖だ」

 さらりと答え、千本桜は瞬歩の速度を上げた。あっという間に二人の霊圧が瀞霊廷から消える。

「湖で何をなさるおつもりですか!?」
「決まっているだろう。湖といえば水浴び、もしくは水遊びだ」

 いきなり何を言い出すのだろう、この人は。
 袖白雪には、千本桜の目的がまったく理解できなかった。
 彼の足は止まることを知らない。

「きっと涼しいぞ」
「それはそうでしょうけどっ……!」
「大丈夫だ、これで白雪も元気になれる」

 告げられた言葉に、袖白雪は目を見開いた。
 つまり、すべて自分のため?

「ほら、もうすぐ着くぞ」
「景厳様……」

 そのどこか単純な思考が彼らしく、思わず笑ってしまった。
 たまには暑い日も悪くない。袖白雪は嬉しそうに、きゅっと千本桜の着物を握りしめた。




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眩しかった夏の午後

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