「何やってんだ、お前ら」

 日番谷が書類を届けに六番隊を訪れると、執務室には白哉と、なぜか十一番隊副隊長である草鹿やちるの姿があった。二人は執務用の机ではなく、主に休憩時に使われる長椅子に腰かけ、その机に向かっていた。
 何やらやちるがせっせと手を動かしている。白哉がそれを興味深そうに見つめている様子は、非常におかしなものだった。

「あ、ひっつんだ!」
「日番谷か。何用だ」

 集中していた作業を一時中断し、やちると白哉が同時に顔を上げた。

「書類を持って来たんだが……何で草鹿がここにいるんだ?」
「びゃっくんと遊びに!」

 即座に切り返され、そういえば草鹿は朽木がお気に入りだったな、と日番谷はぼんやり思った。あの更木剣八とは何もかもが正反対の朽木白哉に、いったいどうしてやちるが懐いているのかはわからないが。

「で、朽木はそれに付き合ってたのか? 珍しいな」
「そうではないのだが……」
「?」
「びゃっくんにね、折り紙を教えてあげてたの!」
「は? 折り紙?」

 日番谷は自分の耳を疑った。だが机の上にある色とりどりの紙を見てしまえば、聞き間違いでないことは確かである。すでにいくつか完成しているものもあり、少し不格好な鶴や犬が目についた。

「何で折り紙なんだ……。つーか、朽木が草鹿に教えてたんじゃねえのかよ」
「違うよ! あたしがびゃっくんに教えてたの! そうだよね、びゃっくん」
「……ああ」

 少し間を置いてから、白哉が小さく呟いた。もちろん日番谷は唖然とする。

「お前……それはおかしいだろ」
「黙れ」

 ふん、と白哉が眉間に皺を寄せ、そっぽを向く。その様子がどこか子供っぽいものに見えて、日番谷はきょとんとした。

(コイツも、こんなガキみてえな顔するんだな……)

 そう考えると、少しだけ自分が大人になったような気がした。

「ま、人に得手不得手はあるからな」
「……不得手なわけではない。折り紙というものをしたことがないだけだ」
「は?」

 机の上に視線を戻し、白哉は「初めてなのだ」と、桃色の折り紙を手に取って言った。

「初めてって……お前、紙くらい簡単に手に入っただろ」

 かくいう自分もそうだ。戌吊や草鹿、更木のような治安の悪い地区ならともかく、流魂街でも治安のいい地区なら紙だって手に入れることは難しくない。
 ましてや白哉は四大貴族。それこそ金箔でできた紙でも折り紙が可能だろう。

「確かに紙には困らなかったが……そのような遊びをした記憶がない」
「!」

 桃色の紙を適当に折り進めながら、白哉は何でもないように言った。その言葉はひどく日番谷の胸に響き渡った。
 自分は、とんだ勘違いをしていたのだ。
 貴族だから、できるのではない。貴族だから、できないのだ。
 白哉は四大貴族である朽木家の当主という、大きく重い立場にいる死神。きっと幼い頃からろくに遊んだことがないのだろうと、日番谷にも容易に考えがついた。

「……悪ィ」
「何を謝る」
「……いろいろ勘違いしてたみたいだ」
「気にするな」

 何食わぬ顔の白哉は、本当に気にしていないようだった。それどころか、日番谷が謝ったときにはわずかに目を丸くしていたくらいだ。

「ほら、びゃっくん! お馬さんができたよ!」
「ふむ……確かに。馬にも見えなくはない」
「ねぇ、次は何にする?」

 黙々と折り紙を折っていたやちるは、世にも珍しい黄色の馬を完成させていた。
 白哉は考える素振りを見せ、「では、鯉などどうだ」と、やちるに提案する。

「え〜ッ! 鯉なんて作ったことないよ」

 今まで多くの種類を折ってきたやちるだったが、さすがに鯉を折ったことはなかったらしい。
 ならば、と白哉は次のものを考えようとしたが、日番谷が「鯉か」と、赤色の折り紙を手にしたので、二人はジッとその手元に集中し出した。

「ひっつん、鯉が折れるの?」
「まあな。折り紙なんて久々だから、綺麗には折れねえけどよ」

 そう言って、時々頭をひねらせつつも、数分でその鯉はできあがった。

「すっごーい!」
「見事なものだ」

 たかが折り紙で大きく感心する二人が、見ていて微笑ましかった。
 次に日番谷は緑色の紙を取り、また何かを折っていく。完成したのは蛙だった。

「ひっつん、すごいね!」
「覚えれば簡単だ」
「日番谷、次は花がいい」

 白哉から白色の折り紙を手渡されたので、日番谷は快くそれを受け取った。興味津々に手元を見つめる白哉は、やちると同じくやはり子供のようだった。

(兄貴になった気分だ……)

 そうなると朽木は弟になるのか、と日番谷はこっそり笑った。別に、嫌な気はしない。
 尸魂界や瀞霊廷について、白哉が知らないことはほとんどないだろう。けれど、こんなに単純なことを彼は知らない。だから、教えてやりたいと思った。子供の頃にできなかったことを、今すればいい。

「なぁ、朽木」
「何だ」
「お前、ガキの頃にしたかった遊びとかあるか?」
「したかった遊び?」
「おう。何かねえか」
「……難しい質問だな。まず、どのようなものを遊びというのかがわからぬ」
「あー……そうだな……」
「びゃっくん、鬼ごっこは?」
「ああ、鬼事ならあるぞ」
「そうなのか?」
「だが、あれは遊びなのか」
「……お前の鬼事ってどんな鬼事だよ」
「……」
「言いたくねえなら別にいい! だから霊圧下げろ!」
「じゃあ今度四人で鬼ごっこしようよ!」
「四人?」
「うん! あたしとびゃっくんとひっつんと剣ちゃん!」
「「断る」」

 そうだ、次に六番隊へ来るときはコマ回しを教えてやろう。日番谷はそう決めて、完成した白い桜を満足そうに眺めた。




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