※死神図鑑ネタ





 欝陶しい。目の前の暑苦しい……というよりもむさ苦しい男どもを前に、白哉は心の底からそう思った。

「頼んます、朽木隊長!」
「どうか、どうかお力をお貸しください!」

 手をつき、頭を垂れる射場と檜佐木の姿に、白哉は頭が痛くなる。そのすぐ後ろでは、浮竹がにこにこと成り行きを見守っていた。
 グラサンに腹巻、前を全開にした死覇装。
 それは男性死神協会の会員としてここにいるという、三人の意志表明であった。

「……浮竹」
「ん? 何だ?」
「私は以前、兄の申し出を断ったはずだが」
「ああ、そうだな。でも射場副隊長……じゃなかった、射場会長たちがどうしてもって言うもんだから、つい連れて来てしまったよ!」

 ははは、と笑う浮竹。白哉の眉間の皺はますます深くなる。
 実はこの三人、というよりは二人。彼らは白哉に協力を求めて、わざわざ屋敷までやって来たのだ(屋敷に入るまでは普通の死覇装姿である)。
 始めはそのおかしな面子に白哉も首を傾げていたのだが、目の前であっという間に男性死神協会特有の格好に着替えた三人に、なぜ屋敷までこの面子でやって来たのか白哉もすぐに合点がいった。以前に浮竹が一人、この姿で己を男性死神協会へ勧誘しに来たためである。
 何でも女性死神協会に対抗することのできる大物死神が必要らしく、自分を当たってきたそうだ。はっきり言って迷惑極まりない。

「ではもう一度だけ言おう。――断る」
「そ、そんな……!」
「もう少しお考えくだせえ、朽木隊長!」
「生憎だが、私は兄らのように暇ではない」

 ナチュラルに厭味を込めて言う白哉たが、二人はそんなことにもまったく気づかず、「お願いします!」と、頭を上げようとしない。

「男性死神協会に愛の手を!」
「気色が悪い」

 何だ、愛の手とは。私が愛の手を伸ばすのは、生涯唯一緋真にだけだ。
 白哉は心の内で呟いた。

「朽木隊長のような大物死神が、儂ら男性死神協会には必要なんじゃけえ!」
「他を当たれ」
「朽木隊長しかいないんスよ!」

 顔をバッと上げ、必死の形相で白哉を見上げる射場と檜佐木。そんな二人に、白哉も思わず身を引きそうになる。

「朽木隊長のグラサンと腹巻も用意しましたけえ!」
「いらぬ」

 こんな乱れた格好をするなど言語道断だ。朽木家当主である己がさらす姿ではない。

「用が済んだのであれば、早々に立ち去れ」

 冷たく白哉は言い放ち、自らも自室に戻るため、腰を上げようとした。しかし、恐れ多くも射場が白哉の羽織を掴み、それを制する。

「……離せ」
「す、すんません! ですが、儂らの気持ちも汲んでもらえませんじゃろうか!」
「二度は言わぬ」
「頼んます、朽木隊長!」

 射場と白哉の攻防を見ていた檜佐木は、徐々に冷静さを取り戻しつつあった。あの朽木白哉の羽織を掴んで離さない射場に、檜佐木は冷や汗を流し始める。
 そろそろ撤退した方がいいんじゃ、と思い始め、口を開こうとしたときだ。

「ダメだよーッ!」

 突如、バアン! と白哉のすぐ横の畳が開き、そこからひょこっと桃色の頭が飛び出した。男性死神協会の天敵ともいうべき女性死神協会、その会長のお出ましだ。

「草鹿!? お前、いったいどこから出て来たんじゃ!?」
「気にしないで! それより、びゃっくんは男性死神協会に入っちゃダメなんだよ!」

 ぎゅっと白哉の腕にしがみつく女性死神協会会長――草鹿やちるは、ぷうっと頬を膨らませて可愛らしく言う。相変わらず屋敷はこの女性死神協会の手によって自由に改造されているようであり、白哉はげんなりとした。
 いっそのこと、自分の権力を使って男性死神協会も女性死神協会も潰してやろうか、などと非道な考えまで浮かぶ始末である。

「びゃっくんはね、女性死神協会の一員なんだよ!」
「「はあ!?」」
「それは知らなかったな! そうだったのか、白哉」

 やちるの爆弾発言に驚愕する射場と檜佐木だが、浮竹だけは一人感心したように頷く。しかし、一番驚愕しているのは白哉だ。
 いつの間に一員にされたのだろうか。それどころか、己はあの協会のせいで被害を被っているというのに。そもそも“女性”死神協会なのだから、男の自分が入っているのはおかしいだろう。

「……草鹿、私は女性死神協会に入った覚えなどない」
「だってあたしが勝手に入れたもん!」
「取り消せ。それに私は女性死神ではない」
「えー! びゃっくんなら大丈夫だよ」
「……何が“大丈夫”なのか理解できぬのだが」

 やちるの発言に引っかかりながら、白哉は静かに言う。檜佐木はハラハラと二人を見つめていたが、とうとう射場が声を上げた。

「朽木隊長! せっかくじゃ、今ここでどちらに入るかハッキリしてくださいや!」

 ダン! と畳を叩き、拳を握りながら、射場は白哉に決断を迫る。白哉はすっと浮竹と檜佐木に目をやるが、二人は成り行きを見守るだけのようだった。

「びゃっくんは女性死神協会だよね!」
「朽木隊長は男性死神協会じゃ!」

 ああもう、どちらも潰れてしまえ。

 そう思いながら白哉はやちるを退かし、ゆっくりと立ち上がった。

「私はどちらの味方でもない」

 普段よりも幾分低い白哉の声色に気づくことができた浮竹は、「マズイなぁ」と、苦笑しながら頭を掻いた。

「言うなれば、どちらも敵だ」

 冷たい白哉の一言に、射場と檜佐木は固まった。この人を怒らせてはいけない、と瞬時に悟った二人の動きは、そこから素早かった。さっさと普段通りの格好に戻り、深く頭を下げて部屋を出て行く。その間、わずか数十秒。
 厄介者を追い出した白哉は、残り一人を追い出すためにどこからか金平糖を取り出す。その金平糖を外へ放り投げれば、やちるはすぐさま追いかけていった。

「……疲れた」
「ははっ、白哉は人気者だなぁ」
「嬉しくない」

 もとを辿れば浮竹のせいであることを思い出し、白哉はきっと目つきを鋭くする。そんな白哉の視線に動じることもなく、浮竹は肩を竦めた。

「まぁ、たまには顔だけでも出しに来いよ」
「断る」

 返ってきたのは浮竹の予想通りの答えだった。
 その後、諦めたかのように見えた射場たちは、「あの威圧感こそ儂らに必要なもんじゃけえ!」と、ますます白哉を男性死神協会へ引き込む気になっていた。




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