ほら、と差し出されたものに眉間の皺を寄せた。

「……いらぬ」
「そんなこと言わずに、な?」

 無理矢理押しつけられたのは、綺麗に包装されたみたらし団子。私がいくらいらぬと申したところで、目の前の白髪の男は聞く耳を持たない。
 昔からそうだ。何がそんなに楽しいのか、いつも朗らかな笑みを浮かべて私に拒絶することをさせない。

 ――いや、違う。

 私が、拒絶できなくなるのだ。

「白哉? どうした?」
「……何でもない」
「そうか、ならいいんだ」

 お前はすぐに無理をするからなぁ、と困ったように笑うその顔が、昔と変わっていないことに安心する。他人に安堵を感じるのは、きっと相手がこの男だからだ。

「そのみたらし団子、朽木と一緒に食べるといいよ」
「私は甘味が……」
「嫌い、なんだろ?」

 私の言葉を遮り、得意気にまた笑う。私の好き嫌いを知っているのも、幼少の頃からの付き合いだからだ。
 あの頃から、私はずいぶんと変わった。己でも自覚していることであり、周りもそう認識している。しかし、目の前の男をふくむごく一部の者たちだけは、さほど変わっていないと笑った。なぜかそれが嬉しかったのを覚えている。

「朽木は甘いものが好きだから、きっと喜ぶぞ」
「……」
「お前も一本くらいは食べて、感想聞かせてくれよ」

 何でもこのみたらし団子は有名店舗のものらしく、なかなか手に入らないのだと言う。ならばなおのこと、私に渡さず自分で食せばよいものを。
 私がそう言えば、目の前の男は頭を掻きながら首を振った。

「お前にやるから意味があるんだよ」
「ルキアのためなら、兄が直接渡せばよかろう」
「そりゃあ朽木にだって食べてほしいけど、これはお前にやったんだよ」
「……理解できぬ」
「わかってないなぁ。親心ってやつだよ」

 子供が可愛くて、いろいろ買い与えてしまう親と同じさ。

 この男はいつまで私を子供扱いする気なのだろうか。今の私に子供という形容はまったく似合わない。もう立派な大人であるはずなのに。

「子供だよ」
「……私は何か言ったか」
「お前の顔を見れば、何が言いたいかくらい、わかるさ」

 そういえば、確かに昔から私の機微には目敏い男だった。幼少の頃はともかく、現在でもこうして知られてしまうのだから驚きだ。

「俺にとって、お前はずっと可愛い子供みたいなもんだ」
「……嬉しくない」

 嘘だ。実はほんの少し、それこそ芥子粒ほどにだが――嬉しく思ってしまった。子供、という部分は引っかかるが。

「おっと、そろそろ戻らないと仙太郎と清音が心配するな。今度は雨乾堂に顔でも見せにおいで、白哉」
「……気が向けば」
「ああ、待ってるからな!」

 最後に頭を撫でられたが、今日は振り払う気にはなれなかった。それが少し意外だったのか、此奴はわずかに目を丸くした後、にこりと微笑んだ。
 去って行く『十三』の背に、私は呟く。

「礼を言う、浮竹」

 どうやら聞こえていたらしく、浮竹はこちらを振り返り手を振った。




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