「死ね、黒崎一護!」
「うおおっ!?」

 突如、自身に襲いかかってくる桜の刃。見覚えのありすぎる霊圧とその技に、一護は状況を把握できないまま霊圧を一気に上昇させた。
 殺される。直感的にそう思った。

「げ、月牙天衝!」
「散れェ!」

 互いの技が激突し、大きな衝撃が起こる。一護は、なおもかかってくる面頬をつけた男に慌てて叫んだ。

「待てよ、千本桜!」

 そう、一護が相手をしているのは白哉ではなく、その斬魄刀である千本桜だった。

「いきなり何だよ! 俺が何かしたか!?」
「うるさい! 俺はいずれ、貴様に身の程を弁えさせてやると誓ったのだ」
「何の話!?」
「響河や村正との戦いを優先させたために今頃になってしまったが、白哉に代わって俺がお前に礼儀というものを教えてやる!」
「だから何の話!?」

 一護に向かって殺気をビンビン飛ばしまくる千本桜。だが、一護には千本桜の言っていることがまったく理解できなかった。自分が千本桜や白哉に何かしただろうか。

「俺にはお前に攻撃される身に覚えはねえぞ!」
「俺にはある!」
「な、何だよ!?」

 しっかりと断言されてしまい、一護は少し後退る。
 本当に自分が彼らに何かしでかしてしまっていたとすれば、のちに白哉と、下手をすればその義妹であるルキアからも何かしらの罰があるだろう。それだけは避けたい。

「俺が何をしたってんだ!」
「馴れ馴れしく白哉を呼び捨てにしているだろう!」
「……は?」

 聞き間違いだろうか。果てしなくどうでもいいようなことが、耳に届いた気がする。

「悪ィ、もう一回言ってくれ」
「何度も言わせるな。貴様が白哉を馴れ馴れしく呼び捨てにしているからだと言っている」
「……」

 聞き間違いではなかったらしい。一気に体から力が抜ける。
 一護は構えていた刀を下ろし、きっかり二秒後に叫んだ。

「くっだらねェ!!」
「何だと!? 貴様、身の程を弁えろ!」
「いや、くだらなさすぎるだろ! つーか、何でてめえが怒ってるんだ!」
「白哉の怒りは俺の怒り、白哉の嘆きは俺の嘆きだ。そもそも貴様が白哉を呼び捨てにするなど千年早い!」

 主一番な千本桜は、一護が白哉を呼び捨てにしていることが気に食わなかったのだ。加えて、白哉自身が一護に呼び捨てで呼ばれることをよしとしていない。
 千本桜が一護を斬る理由はじゅうぶんだった。

「って、納得できるか!」
「黙って斬られるか呼び方を改めるか、どちらかを選べ。……一太刀は入れねば気がすまぬが」
「ふざけんじゃねえ! だいたい何で呼び捨てがダメなんだよ」
「白哉の名を、貴様のような薄汚い小僧が呼び捨てにすると腹が立つ。俺も、白哉自身もな」
「てめえ……」
「ちなみに、俺も貴様に名で呼ばれることには、些か抵抗がある」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ!」
「そうだな……様をつけろ」

 どこかで聞いたことのある台詞だった。やはり持ち主と斬魄刀は発想まで似通っているのだろうか。
 白哉様と千本桜様。そう呼ぶ己を想像して、一護は顔を歪めた。

「ありえねえ!!」
「貴様、まだ言うか!」
「……何の騒ぎだ」

 一護の言葉に怒り、千本桜が再び刀を散らそうとしたときだ。二人の耳に、凛とした聞き慣れた声が届いた。

「主!」
「白哉!」
「なっ、貴様! よほど斬られたいらしいな!」
「今のは反射的にだろ! てか、しつけえよ!」
「何を騒いでいる」

 自分を放置して再び言い争いを始めようとする二人に、白哉は静かに尋ねた。その声には、無視することのできない威圧というものがある。

「千本桜が、俺が白哉を呼び捨てにすんのが気に食わねえんだとよ!」
「……」
「そんで俺に向かって斬りかかってきやがんだ!」

 はたから見れば、まるで保護者に告げ口をしている子供のようである。そのすぐ横で千本桜が気まずそうにしているところが、さらにそれっぽい。

「止せ、千本桜」
「あ、主……」

 白哉に「止せ」と言われてしまえば、これ以上刀を振るうことはできない。
 落ち込んだ様子の千本桜を見て、少しばかり罪悪感を抱いた一護は、甘くも彼に助け舟を出してやろうとした。

「白――」
「やるならば、卍解するくらいの勢いでいけ」
「……へ?」

 あれ、何か白哉の霊圧が、心なしか上がった気がするんだけど。
 一護は「お、おい……」と焦り声を漏らすが、生憎と白哉はそんなものに耳を傾けるような甘い死神ではなかった。千本桜へ目を移せば、面頬の上からでもわかるほどに喜んでいる。

「ま、待てよ、お前ら……」
「御意っ!」
「待てーッ!!」

 この後、一護が呼び方を改めたかどうかはまた別の話である。




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