好きな人にこそ、自分のものという証をつけたいと思うのはごく自然な欲。
彼女は、名前は、それが少し変、というか特殊だった。
伸ばされた左腕に、容赦なく名前は噛み付いた。
もちろん同意の上でという前提がある。
「…満足?」
「うん、大満足」
サッカーをしているにしては案外と焼けていない腕に鮮血が流れる。
他に比べれば幾らか白い肌にはその赤がやたらと映えた。
「蘭ちゃん肌比較的白いし、血みたいな赤がよく似合う」
キレイだよ
とは言うものの、傷は思ったよりも深く大袈裟に包帯を巻くはめになった。
一歩間違えればリストカットに思われかねないだろうが、これが名前のいわゆる証。
ちなみにその代わり、と言ってはなんだが、名前のうなじ辺りには俺がつけた"証"がついている。
「霧野」
「あ、神童」
眉を八の字に下げ神童は俺の腕をちらりと見た。
「その腕…どうしたんだ?」
コイツは名前のあれを知らないのか、当然のことだと言うのはそう考えてから気がついた。
「猫に、噛まれた…かな」
「かな、って」
アイツがつけたものだと思うと、自然と口角があがっていた。