「ピアス忘れたかもしれない。つか忘れたわこれ」
自分の左耳を触りながらひとりごちたわたしは、いま来た道を引き返す。
あれがないと多少ながらも調子が狂う。
気付くのが早くてよかった。
もう少し遅かったら距離的に面倒になって帰ってた。
それはもう、そわそわしながらね。
「あれ、」
「あ」
着いたときにそこにいたのは星降。
まだユニフォームだったから、もしかしたら練習してたのかもしれない。
ぼーっと見てると、星降は不思議そうに首を傾げた。
「どうした?」
「いや、まだ残ってたんだなって思って…あった」
「ピアス?」
「うん。元カレからもらったんだけど、つけてる日が多くてないと違和感があって」
元カレに執着してる訳じゃない。
このピアスがお気に入りなだけ。
デザインとか、そういう面で。
「また、戻りたいとか思ってる?」
「ううん。未練がましいのは好きじゃないし」
「よかった」
疑問の声をあげるより少し早く。
肩を押されて壁に体を押し付けられた。
顔を上げたら星降の顔がすぐ近くにあってまた下を向く。
「俺にだって可能性あるんでしょ」
あ、そういえば星降がわたしを好きだって言う噂、聞いたことあるなぁ。
…まさか。
「好きだ、苗字」
「あれー、どうしたのぉ?そのイヤーカフ」
「香宮夜からもらった」
「か、?」
「名前」
風に舞う髪の隙間から見えた左耳には赤いワンポイントのピアス
ではなく、イヤーカフに繋がるダミーピアス。
「もう塗りかえられちゃってるしー」