「ごめんなさい!」
「もうふざけちゃダメだからねー」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく数人の男の背中に適当に手を振る。
「あは、まったく根性ないなぁ」
「お前あれ上級生じゃないのか?」
「あ、修二くん」
手袋を外しながらその場にぽすっと座った名前の隣に咲山は腰を下ろした。
「だって本当に根性ないじゃん」
「まぁそうだな」
「でしょー」
間抜けたような声で返事をする名前に本当にあの人数を負かしたのかと疑いたくなる。
だがそれは紛れもない事実。
小柄でその辺の女子よりも細く、可愛らしい少女が体格差のある男を殴り倒してしまうのだ。
「んー…」
―ぽて、
「っ!?」
肩に感じた重み。
それと同時に聞こえたのは寝息。
「名前?」
返ってくるのは規則正しい寝息だけ。
「っ、こいつは…」
赤くなった顔をマスクをかけなおすことで隠したが体温はなかなか下がらない。
(無防備すぎんだろ)
(俺なら大丈夫とか、思ってそうだな)
(…男として意識されてないのか?)
本当にありえそうだから怖い。
おもむろにだらんと垂れた手をとって、マスクを外し、そこにキスをおとした。
「どうしたらお前は男として俺を見てくれるんだ?」