End-No.6:嘆き鳥
だってあんまりだ――と、彼は言ったのです。
これは愛ではなく、ただ利用しているだけ。ボクの痣(あざ)だらけの体を抱きしめて、彼自身は痛くも痒(かゆ)くもないのにぽろぽろ≠ニ、涙を流しながら言うのです。
そんな彼の姿を見ていると、忘れていた何かを思い出せるような気が……いいえ、違います。彼方(かなた)へと追いやった[もの]が何なのか、本当はずっと前から知っていました。
父様はボクを愛してくれているし、そんな父様をボクは愛しているからあんな非道(ひど)いことをされても平気だった。そのはずでした、はずだったのに、はずじゃなかった――そうしなければ生きるのすら辛かったから、そうするしかなかったのだと今なら分かります。
最初からわかっていました、あなたが愛していたのはボクの中にいる母様。ボク自身はどうでも良くて、母様によく似たボクの皮を愛していただけなんですよね。
だからあなたはボクを汚しても、ボク自らが汚れることを嫌ったのですか? ボクを愛しているから、ボクを汚すのはご自分の手でないと嫌なんだ≠ニか、そういう勝手な思い込みで幸せな気分に浸っていたボクはさぞかし哀れだったでしょう。
随分と勝手な人ですが、嫌いではなかった。あなたの鋼のような声や手の暖かさが好きでした。どんな非道いことを強要されても甘んじて受けたのは、それを喜びとして感じていたからです。
愛されている、愛されている、愛している、だから。……はい、ボクは確かにあなたのことを愛していました。
嫌いじゃなかった、好きでした、愛していました――過去形で話される程度にしかもう思えないんです。だってボクはずっとあなたに愛されているから、他の愛なんて要らないと思っていたんですよ?
ボクのことを『好きだ』と言ってくれる彼は、とてもキレイで優しくて、お日様みたいな人だから。きっと、ボクの汚泥を知っても一緒に生きていこうと言ってくれるでしょう。
知っている者が誰も居ない土地で、ふたり静かに暮らせたら――嗚呼、なんておこがましい。そんなことを願って良いわけがないのに。きっと紡ぐ言葉の全ては爛(ただ)れ、ひどい匂いがするに違いない。
何もできることがない、奪うだけで与えられるものが何一つ無いことに乾いた笑いが出て来る。だからせめて彼にとって障害となり得るものを持って行こう、そう思った。
プラズマ団、父様――そして。
――――――
立つ鳥跡を濁さず。
2011/03/10
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