End-No.7:Love is blind
困ったな、どうしよう。
ボクは元々お飾りだったから仕様がなかったけれど、まさか父様まで彼に負けてしまうなんて。それからボクを『人の心を持たない化け物』だとおっしゃいますが、そうしたのは父様ではありませんか――ええ分かっています、重々承知していますとも。
見て下さい彼らのあの顔、ボクのことをきっと[可哀相]なんて思っているに違いありません、失礼な。そもそも普通の人間が英雄なんてモノになれるわけがない。泣きそうな顔でこちらを見ている彼は、英雄になるようにと画策した結果なのだから。
心優しきチャンピオン、今更自由に生きろと言われても困る。そもそもボクは不自由に生きてきたつもりはないし、そうしろと強制されて王になったわけではないのだが……。
したいことをしようとしただけで、その途中で何かと――例えばあなた方のような存在と衝突してしまうのは仕方がない。そんなことも分からないほどボクは無知ではないよ、少なくともあなたが思っているよりは。
これだからヒトは嫌いなんだ。理解するフリをして、結局のところ我を貫きたいだけ。そう言う意味ではやはりボクもまたヒトであり、父様もヒトなのだろうと思う。まあ、今はどうでも良いことだけれど。
何だって、『一緒に生きよう』だって? 前々から思っていたけれど、キミは馬鹿なのか? 他人の夢を砕いておいて、なぜそんなことが言えるのか……冗談でもいい気はしないのだが。やはり英雄は壊れていないと務まらないらしい。
――アァ、なるほど。
父様あなたはやっぱり優しいお方だったのですね、ボクはとてもいいことを思いつきました。あなたが負けたと知っている人間は! ボクがもう一人の英雄に負けてしまったと知っている人間は!!
ねえレシラム、もう動けるよね? ゾロアーク、キミは人間に化けることができるんだよね? ここにいるトモダチは、みんなボクのこと好きだよね? ボクもみんなのこと大好き、だから後少しだけ頑張って。
嫌なことをさせてごめんね、でもきっと幸せになれる……ううん、ボクがしてみせる。父様は約束してくれた、必ずボクの夢も叶えて下さると。だから彼らには悪いけどこうすることで全てが上手くいくのならそうするべき≠セ。
キミよ英雄になってくれてありがとう、道を外れなくて良かったよ。それから散々ひどいことを言ってすみませんアデクさん、あなたのこと少しだけ気に入ってました。ただついてきただけのチェレンくんは本当に可哀想、今更だけれど付き合う人間は選ぶべきだったね。
でも仕方がない。ボクのしたいことをするためには、こうするしかないのだから。きっと褒めてくださる、楽しみだな――楽しみ? 久しぶりにそういう人間らしい感情を思い出したような気がする。
……なんだ、やっぱり父様は優しかった。ボクの我儘に付き合ってくれていただけだったんだ。もう一人の英雄と雌雄を決したい、と、子供のようなことを言って困らせてごめんなさい。よく考えれば、負けること自体おかしかった。
聞こえてくるサザンドラの嬉しそうな声、向こうはもう終わったみたいだ。じゃあ次はボクの番と背を向けた彼を呼び止めて、優しい微笑みを作りながら手を伸ばした。
「キミには夢がないと言った。でもね、ボクには夢がある。キミが砕いたものではなく、ね。協力してくれれば、うん……多分、きっと、恐らく。叶うと思うんだ」
だから。
「もっとそばに来て」
サヨナラ英雄。
「キミと――トウヤと、話が、したいんだ」
コンニチハ英雄。
――――――
偽りの英雄王は盲目にして狂人なれば。
2011/03/10
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