End-No.2:拝啓 | ナノ
End-No.2:拝啓

 降雪の頃、いかがお過ごしでしょうか。この季節になると古傷がシクシクと痛んで少し辛いです。父様の傷も痛むのではないかと心配しています。余計なお世話だったらごめんなさい。

 ろくでなしと言うんですよね、ボクのような人間は。その通りだと思います。でもトウヤくんはこんなボクでもいいと言ってくれるんです。

 さて、この間はお返事ありがとうございました。ボクの目はもう見えないので、トウヤくんに読んでもらいました。この手紙も彼に書いてもらっています。

 連絡先をトウヤくんは教えてはくれないのですが、今どこで何をしているのか気になります。お手紙には心配するな≠ニだけあったので仕方ありませんが、それでも気になってしまいます。

 流浪の民と呼ばれた時のことを思い出しました。早く再建できるといいですね。

 ただ、ボクはもう無理でしょうから新しい人を探して下さい。きっとボクよりましな人間がすぐに見つかると思います。

 少し辛いですが、会えなくてもこうやって手紙のやりとりはできるので大丈夫です。最初は殴られたり怒鳴られたりと怖くて嫌なことを沢山されましたが、今はとっても優しくなりました。最初は痛くて辛いことばかりで死にたいとすら思いましたが。

 けれど、ボクは彼に愛されているんだなあと思うのです。ひどいことをされても平気なのは、そういうことなんだと思えるようになりました。

 天気が良い日が続いていると聞きます。お日様の光を浴びてみたいのですが、トウヤくんはそれを許してはくれません。父様の所に居るときも同じようなものでしたね。ところで外に出るときはいつも彼に抱かれているのですが、重たくないのでしょうか。

 つい最近の話ですがトウヤくんがボクのために仕事を変えてくれました。でも、時々来る人に中を見て殺されても知りませんよ≠ニ、言うのはやめて欲しいです。ボクはそんなことしないのに、といってもあまり彼以外の人間とあったことはありません。いつも一人でカタカタとパソコン打っているようで、何をしているのかと聞いても笑うだけで教えてはくれないのです。

 ラジオを付けっぱなしなので、父様が弾いていた曲たちが時々聞こえてきます。トウヤくんが今度会いに連れて行ってくれると言っていましたが、また喧嘩したらいやだなあと思います。

 痛いことも沢山されましたが、トウヤくんは本当はとっても優しいです。だから父様は彼のことをあまり悪く言わないで下さいね、ボクはもう目も見えませんし自分一人では何もできなくなりましたが、彼はボクから奪った全てを変わりにくれます。

 ただ、目が見えなくなってしまったことだけは残念だと思います。こんなことをしなくてもボクはどこにも行けないのに。

 好きという思いが重くて、時々苦しいとすら思いますがボクは元気でやっています。同じことを何回も言ってすみません、それでもボクは彼が好きです。では口が疲れてきたのでこのあたりで失礼します、お体には気をつけ下さい。

 敬具

 ……追伸、ボクはトウヤくんを愛しています。

―――――

「最後の[てん]は点線でいいの?」
「うん。……それと、改行もちゃんとしてね」

「わかってるよ、全部」

――――――

文頭の文字を並べると……本当に返事をくれたのは[父様]だったのか。
2011/01/06
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