混ざり合って、アイ。 | ナノ
混ざり合って、アイ。

 室内灯の薄明かりに照らされる片割れの声は今にも泣きそうなほど震えているのに、表情は凍り付いたように無を刻んでいる。いつも似ていないと言われているがやはり双子か≠ニ、のし掛かられたままノボリは思った。
「起こしてごめんね、こんな時間に。でも仕方ないよね、涙だってぼろぼろこぼれて、痛くて辛くてどうしたらいいか分からなくって、だから」
 ひた、と同じ顔をした片割れが手を伸ばして首に触れる。
「夢を見たんだ、生まれる前のぼくたちがぷつんとわかれちゃう夢。一つが二つになることはあっても、二つが一つになることはないんだね。こんなに近くにいるのに、何度も体を重ねて繋がって愛し合っても――」
 まばたき一つしない薄く青みがかった灰色の目。どこを見ているのか分からないと言うより、ただ一つしか見ていないあまり他の何も映らない。それから逃げるようにノボリが視線を逸らすと、彼の片割れはそっと手に力を込めながら口の端を上げて笑った。
「ぼくらは一緒になれない」
「……お止めなさい、わたくしはまだ死にたくはない」
「まだ何も言ってないのに、ノボリはいつもそうだ」
 片割れであるクダリが同じ顔を見つめながら『じゃあ一緒に死んでくれないのなら、ぼくは一人で死ぬことにするね』と、無邪気に笑う。その言葉と表情に偽りは一切無く、本心からそう言っていることに恐怖や憐れみを通り越して呆れる。
 この片割れは、ふと気付いたときには手遅れなほど壊れていた。もしかしたら、最初からだったのかもしれないし、後からそうなってしまったのかもしれない。どちらにせよ、今が変わるわけではないので気にすることもないだろう。
 自分が[出来損ない]なのだとしたら、片割れは[壊れもの]だ――そんなことをぼんやりと思った。しかも自分がそうとは気付いておらず違うよ、君は何を言っているの?≠ニ、否定する救いようのない類の。
 ここで止めなければ自ら命を絶つだろうと思わせるほど瞳は薄く青く、濁って澄んだという相反する二つの要素が完璧に融合した光を湛えている。仕方なく深い溜め息を一つ吐き、ノボリは溜息混じりに言葉を紡いだ。
「それと同時に、あなたを失うのもまっぴらごめんです。だからわたくしが悲しむような真似はお止めなさい、良いですね」
「君にそこまで言われちゃ仕方ないね、ぼくはノボリのことが大好きだから」
 幸せそうに笑い、クダリが首から手を離し片割れの耳を軽く食(は)む。何か不安があるとき、苛ついているとき、甘えたいときに取る行動――鬱陶しそうに同じ色をした目を細め、ノボリがその頭を優しく撫でる。愛しいと思っていた時期もあったが、何度も繰り返すうちに馴れてしまった。
「本気だよ」
「分かっています」
「どうすればノボリが幸せになるのか考えて、結局最後に行き着くのはぼくの死≠ネんだよね。困ったね、君のこと大好きなのに他の人と話したり、笑い合ったりする君は大嫌いなんだ。どうしようもないね、昔から言われてたお兄ちゃんは偉いのに、どうしてクダリはそうなの≠サの通りすぎてぼくはどうしたらいいか分からないんだ」
「それでも、わたくしはあなたのことが大好きですよ」
「それでも、一つになれない。なりたいな、なりたいんだ、ぼくはノボリと一つになりたい――最初は一つだったのに、どうして分かれちゃったんだろう。悔しいな、苦しいな、辛いな、でもびっくりするぐらい幸せなんだ、君にこうやって甘えられる」
「……お眠りなさい、クダリ」
 続けて紡ぐ『わたくしが側に居ますから、もう恐い夢も見ないでしょう』という言葉にクダリが小さく頷き、縋るよう抱き付きながら静かに瞼を閉じる。よほど不安だったのか、眠りに落ちるのが異常に早い。
 元々は一つだったものが分かたれた結果、[出来損ない]と[壊れもの]二つ揃って当たり前、くっついているのが当たり前、こうなるのは当たり前、だから後ろめたさもなにもない、あるわけがなかった。
「とっくの昔にわたくしは自分がそうである……と、認めてしまいましたから」
 ノボリは緩やかに微笑みながら、冷えていく体とお互いに足りない心の隙間を埋めるように片割れの背を優しく撫でた――莫迦ではありますが、愚かなのはわたくしの方ですね。

――――――

自覚のある人間と、自覚のない人間。AわれみとIつくしみ、混ざり合って。

2010/12/21
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