我が恋心は行方知れずにはならないのさ
厳しい冬を乗りこえ、暖かい風が吹く春に突入から約一週間。白鳥沢学園高校は今日とういう晴れの日に、卒業式を迎えた。3年前、新しい制服に身を包んで緊張にガッチガチに固まった時とは段違いに、落ち着いて厳かな気持ちで臨むことができた。学生という括りから卒業する大事な日であるのにも関わらず、私はこの後の───部活ごとに集まったその後の、やらなければならないことをずっと考えている。

「名前ちゃーん? お顔が硬いですことよ?」
「うっさい天童。近寄るな」
「んまーー! 硬い上に口も悪いときましたか。そんなんで太一に言えるの〜?」
「っ? は、な……なんで知って、」
「あれぇ? 知らなかったの? レギュラー陣全員知ってるよ、若利クンと工はわからんけど」

なんてことだ。まさかの四面楚歌である。意味は違うが流石に自分の気持ちを伝える前に外野に悟られてしまっていた。え、なにそれ辛い。
待てよ? レギュラー陣って言った? え? 白布も? あの先輩に対して生意気な(その影に隠れた尊敬と優しさは知っている)口を叩く聡いセッターが、知っている……?

それは やばい !!

「天童!!」
「なに、なに?」
「川西どこいったか知らない!?」
「何言ってるの名前ちゃん、たったいま卒業式が終わって今から各自教室に戻るんだヨ? まさか2年の教室に乗り込む気じゃあ、あらま、大胆だネ〜!」
「うっさ!! 違うわ!!」

高校最後の日だからか、周りは別れを惜しむ同級生の声が包み、先生たちも小さく微笑んで見守っているだけ。だから私と天童がいつもと同じく騒いでも誰も気づかない。いや、気づかないは言い過ぎた。近くにやってきていた瀬見が人懐っこい笑みでまあまあ、と仲裁してくれた。
瀬見も瀬見で仲良くしてくれて、すっごい感謝もしてるし尊敬もしてるんだけど、なぜこうまで出来た人であるのに私服センスが、ゼロなのか……。

「あ、牛島」
「苗字。天童、瀬見もいたのか」

ホームルームまで幾ばくか時間に猶予があり、ただ何もせず教室の自席で待機しているのは退屈だという天童の提案で、廊下で話していると、前方に目立つ男の背中が見え声をかけると、その有様に目をひん剥いてしまった。

「え、なんでもうボタン無いの?」
「? 先程、欲しいと言っていた2年にあげたんだが……」

天然って、恐ろしいねえ。その第二ボタンになんの意味も込められてないってことに、いつ気がつくのやら。ああいや、ここまで有名な牛島だ。流石に牛島の性格は熟知の上か。

「若利クンは罪作りな男だネェ」
「……ホワイトデーの時のお前に聞かせてやりたいわ、そのセリフ」
「瀬見それな。めっちゃ分かる」

私たちの総ツッコミに牛島は首を傾げるだけで、これもいつものことなので何も言わない。
そろそろ時間が差し迫り、クラスに戻ろうと踵を返した時、牛島に呼び止められ、かけられた言葉は、

「ところで、川西になにか伝えるんじゃないのか?」

おいまじかよ、なんでバレてるの!?


◇◇◇


男子バレーボール部では、それなりに大きな送別会となった。そりゃそうか。この学校からプロ入りする選手が生まれたのだ。なんだか自分のことではないのに鼻が高い。誇らしい。
そんな送別会も終わりを迎え、五色や白布、大平や山形と話しながら最後は一年、二年に見送られることとなった。
……のはずなのに、どういう訳か私は天童に背中を押され、川西の前に立たされている。
ど、どういうことだ……!? 天童は絶許!!

「苗字先輩、卒業、おめでとうございます」
「あ、うん。ありがとう」
「髪下ろしたんすね、似合ってます」

さりげなく褒めてくれるのは嬉しい。めっちゃ恥ずかしい、けども。でももう今日しかチャンスがないのだ。ここを逃したら女が廃る。

(苗字名前、びびるな。おじけづくな。いまここで、川西に言うんだろう?)

恥ずかしさでどこかに隠れたいし、大声を上げて駆け回りたいとも思うけれど、私は私の気持ちを伝えるのだと決めたのだから。
ぐっと距離を詰め、背伸びをして川西の耳元へ口を寄せる。ピシッと硬直したことには気づいたけど、今は無視。

「─── しのぶれど 色に出でにけり
わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」
「えっ?」

これが、私の精一杯。普段は表情と言葉がマッチしてないと言われがちな川西だけど、今回ばかりは呆けたように私を見ている。
そうだ、私を見て。他の誰かを見ないで、私を、私だけを見て。

百人一首の恋の歌。今日になってから急きょ使ったわけだけれど、川西はこういうのに疎いってことは知ってる。だからこれは賭けだ。
歌にこめられた意味を正しく理解して、答えを出してくれたら私の勝ち。それ以外は私の負けってね。

「ありがとう、川西。これからも、よろしくね」




主催のみさんがです。今回は白鳥沢学園高校縛り+『春』という形式で企画を立てさせて頂きました。当方は川西太一を担当させて頂き、卒業式と告白をかけました。私の作品及び、素晴らしい文字書き様たちの、素晴らしい白鳥沢学園高校のお話、楽しんでいただければ幸いです。



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