05
終演のアナウンスがなり、人々はぞろぞろと帰り始める。私はというと、少しでも長く三角くんのそばにいたくてゆっくり帰り支度をしていた。
「ねえねえ」
不意にかけられた声に驚き、恐る恐る声の方を見る。声の主、三角くんが私を満面の笑みで見つめていた。
「お名前、教えて!」
「わ、私の……?」
「うん!」
キラキラした目が私を捉えて離さない。吸い込まれちゃいそうなくらい綺麗な目。こんな近くで見ちゃっていいのかな。
「名前……名前です!」
「名前ちゃん! オレは斑鳩三角です!」
「いやそれは知ってるでしょ」
笑いながら三好くんのツッコミが入る。
「名前ちゃんお芝居好きー?」
「好き、です!」
三角くんの方が好きだけど、なんて言葉は心に閉まって、何度も頷く。
「オレも〜! さんかくと同じくらい好き!」
三角くんの満面の笑みが可愛くて、胸がきゅっと締めつけられる。好きが溢れて泣きそうになるくらい。
「すみー! ゆっきーがこっち見てるからそろそろ行かなきゃ!」
「あ、ほんとだ〜! オレ、もっともーっとがんばるから! またお芝居、見に来てね!」
ぎゅっと手を握られ真剣な目が私を見つめる。もしかしたら今日死んじゃうのかもしれないってくらい幸せな体験で言葉に詰まる。何度も首を縦にふって、やっとの思いで口を開く。
「は、はい! また、来ます! ずっと、応援してます……!」
ほんとはもっと、伝えたいことはあるはずなのに。これ以上口にするとわけもわからず泣いてしまいそうで怖かった。
ありがとうと笑う三角くんの顔が眩しい。
「それじゃあ、またね、名前ちゃん」
三角くんの手の温もりが離れていく。さっきまで私の手を包んでいた彼の手が何度も振られ、私も控えめに手を振り返す。好き。好き好き好き。大好き。
「大好きだよ……三角くん……」
劇場を出て、小さく呟いた言葉は今は誰にも届かない。いつか三角くんに届けられますように。