ギブソン



「やっと終わった〜!」
大きく伸びをすると、お疲れ〜! と手が伸びてくる。ゼミの発表でペアになった仙石くんのものだ。わしゃわしゃと私の髪を撫で、印刷しに行くかと声をかける。資料を手に印刷室へと向かう途中、見慣れた黒髪と坊主頭が視界に入る。サイジャ着てるところを見ると今は部活中なのかな。もうそんな時間なのかと時計に目を向けると既に時計の短針は6から7へと進もうとしていた。

「うわっ、もうこんな時間なんだ。急ごう、印刷室閉まるの早いから!」
「えっ、うん」

仙石くんは私の腕を掴み走ってチャリ部の横を抜け印刷室へ入る。荒北がこっちを見ていた気もするけど私の勘違いかもしれない。後で会うし聞いてみよう。黙々と作業を進め全て印刷し終えたのを確認して家路へと向かう。送ってくよ、と仙石くんは言ってくれたが断った。

今日は荒北が来る日だから待っていよう。そう思うも待てど暮らせど荒北は来ない。いつもなら帰ってきてるはずの時間になっても連絡のひとつすら来ない。部活が長引いてるのかそれとも単に来れない理由ができたのか。不在だったら諦めて寝ようと言い聞かせ私は彼の部屋へと向かう。ピンポンと音を鳴らすと暫くしてドアが開く。なんだいるじゃん。

「あ? なまえチャン?」

なんでいんのォ? とでも言いたげな顔をしている。とりあえず入ればァ? と言われおずおずと部屋へ足を踏み入れる。

「んで、何か用?」
「用も何も…! いつもみたいに来ると思ってたから待ってたんだけど…」

段々と言葉尻が小さくなり私は静かに彼を見つめる。彼は彼で、あーうんと生返事をして自身の頭をガシガシと掻いていた。なんで今日そんな機嫌悪いの。 気づけば言葉はなくなり沈黙が続く。暫くして意を決したように同時に口を開くと言葉は重なり、思わず吹き出してしまった。

「なんだヨ」
「荒北から先にどうぞ」
「あー、んだよ。あれだ、あれ。今日一緒にいたアイツ。アイツと付き合ってんのォ?」
「は?」

何言ってんだこいつ。は? って荒北も返してくる。元ヤンから発される「は?」って怖すぎない?

「なんでそうなんの! てか仙石くんは彼女いるって聞いたし! ないない!」

ぶんぶんと手を振って否定すると彼は少しだけ驚いた顔をした後、にやりと笑った。

「ンだよ。んじゃ飯にすっか」

機嫌が良くなった彼に続きキッチンへと向かう。荒北が適当にご飯を作り始めたのだがなんで機嫌が良くなったのかまるでわからない。尋ねようとするとタイミングよく玄関チャイムが鳴らされる。

「みょうじさん? そうかそうか」

ドアの前に立っていたのは金城くんで、何故かうんうんと頷いていた。何? と尋ねると金城くんは少しだけ意地悪そうな顔をする。

「みょうじさんに彼氏が出来たってどこかの誰かが不必要に慌ててな。まあ、取り越し苦労というかなんというか」
「ウッセ金城! それ以上言ったら出禁にすっかんなァ!」

ふっと笑みを浮かべる金城くんと相変わらず煩い荒北とを見比べて私も意地悪な笑みを浮かべる。

「荒北くんそんなに寂しかったんでちゅか〜?」
「ウッセーブス!!」

暴言を吐く彼の耳が微かに赤くなっていたなんてそのときの私は気づいてはいなかったが、荒北の有り合わせ漢飯を食べながらアルコールに手を伸ばす。一日の疲れも吹っ飛ぶような至福の時間が、今日も訪れてくれて良かったと心の中で小さく呟いた。




prev*next
back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -