雪と双子と猫だるま(沖沖+土沖/現代/双子パロ)



*2012年〜2013年冬企画フリー小説:配布期間終了、閲覧のみ
*『心の鏡』番外編


カーテン越しに射し込む朝日と身を震わせる寒さに、夢の底にいた意識が浮上していく。
ゆっくりと重い瞼を開けば、大好きな兄や土方すらもまだ眠っているような時刻だった。

早寝で朝寝坊体質の緋色にとって、彼らの寝顔が見られるのは大変に珍しく、それと同時に、目覚める瞬間まで温もりを感じていられるのはとても貴重なこと。

(んん・・・、そう・・・じぃ・・・。)

穏やかな寝息を立てる総司に、そっと頬を摺り寄せてみる。
眠りが深いのか、擽ったそうに小さく声を漏らすのみだ。

すると、身じろいだ感覚に目敏く反応した土方の腕が、守るように彼の身体を自分の方へ引き寄せた。

(むぅ・・・。ダメだって、ば・・・・・・っ。)

そのまま抱き込もうとする土方に対抗するが如く、緋色もまた、総司の身体にひしと抱きつく。

互いに隙間なく寄り添い無言の取り合いを繰り返す中、当の本人は一切関係なしとばかりに、自然と集まった温もりを享受しつつ気持ちよさそうに眠り続けるのだった。


せかせかと朝食を口に詰め込む緋色。
冬休みに入り、遅刻寸前で焦っているわけではないのだが、今の彼にはそれだけの『急ぐ理由』というものがあるのだ。

「おい緋色、ちゃんと噛んで食いやがれ。」

「んぐ、ぐっ・・・。ひゃって、はひゃく・・・ひゃべにゃいほ・・・・・・っ!!」

「・・・・・・飲み込んでから喋れ。」

ハムスターよろしく、両頬に咀嚼しきれないパンを溜め込んでいるせいで、何を言ったのか一切聞き取ることが出来ない。
・・・というより、喋った拍子に喉に詰まらせて悶絶するのではないかと思うと気が気でなかった。

心中を察したのか、隣で食事を摂る総司がさり気なくマグカップを手に取り、指示通りに飲み込もうと試みる緋色の前に差し出す。

案の定無理があったのか、苦しそうに顔を歪めながら中身のホットミルクをゴクゴクと飲み干す様にため息を漏らすと、口元に付いた食べ零しのパン屑をささっと取り払ってやった。

前世から子供の面倒見だけは良かったが、弟が出来てからはより『兄らしさ』というものが板についたように思える。
弟といっても双子だし、彼自身もまだまだ十分に子供の域だが。

「ふ、はぁ・・・っ。」

「そんなに急いで食べなくても、雪は解けないから大丈夫だよ。ですよね?土方さん。」

「あぁ、そういうこった。少なくとも、朝飯をゆっくり食うくれぇの時間は待っててくれるさ。」

「総司・・・と、土方さんがそう言うのなら。」

微妙な間が空いたのはいただけないが、あくまでも土方は彼にとって『ついで』の扱い。
大好きな総司がそうだと言えば、全ては真実になるのだ。



朝食を済ませると、一時大人しくなった緋色が再び落ち着きを無くし、そわそわとし始める。
早く早くと急かされ、後片付けもそこそこに上着を羽織ると、待ちきれないとばかりに玄関のドアを開け放ち、総司の腕を引きながらさっさと駆けていってしまった。

エレベーターを待つ間に何とか追いつくことが出来たが、もどかしげに眉をハの字に歪める彼の頭の中は『雪』という一点にしかないようで、一分一秒すら惜しいと地団駄を踏んでいる。

到着したエレベーターに自分達だけ乗り込んで、早々と扉を閉めようとボタンに手を掛けた時は、さすがに総司が声を上げて我に返ったが、一歩間違えば冗談で済まない事態になっていただろうことは否めない。


「総司、凄いよ!!雪だよっ!!」

山奥とは違い、この辺りで積もるほど雪が降るのは相当珍しい。
少なくとも、土方がこの街に定住してからは一度も無かった。

加えて、今こうして降り積もっている雪は今年の初雪・・・正真正銘の新雪というやつだ。
雪掻きが必要になる積もり方ではないにせよ、子供達がほんの一時遊んで回るには十分。

比較的温かい土地で育ってきた総司と緋色にとっては、現世に生まれ出でて初めての雪であり、且つ緋色は、実体を持って自分の手で触れることの出来る最初の機会。

純粋で無邪気な性格の彼にとって、こんなにも胸躍る自然の贈り物はなく、故に気持ちが急いて止まなかったというわけなのだ。

「わあっ・・・!!ここはまだ真っ白のままだ!!僕達が一番っ!!」

「くすっ。じゃあ、他の人が来る前に二人でい〜っぱい足跡付けちゃおうか。」

「うんっ!!」

満面の笑みを浮かべる彼の頬は、冷たい外気によって瞳を同じように鮮やかな赤みが差し、吐き漏らす白い息と相まってとても寒そうに見えたが、高揚する心が寒さを忘れさせているのか、表情から読み取れるのは幸せな想いのみ。

嘘のない笑顔は見る者の心までもほっこりとさせ、まるで、優しく大地を照らす陽だまりのようであった。


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