過保護な旦那と幼妻(土+沖+斎/幕末)



*拍手御礼小説第二弾
*掲載期間:2011.10.13〜2011.11.22


「総司、入るぞ。・・・って、お前何で寝てねぇんだ!!」

「そんなこと言われても、こんな真っ昼間から眠くなんてならないですよ。」

「病人は寝てろって再三言ってんだろうが。ほら、とりあえず布団敷いて寝巻きに着替えやがれ。」

「嫌です。」

「あんだと?!」

「土方さんはすぐにそうやって僕のことを病人扱いするんですから。・・・これくらいの熱、別にどうってことないですよ。」

ふいっと顔を背けると総司は眉を顰めた。表情の中に微かに切なさが滲む。

憎まれ口を叩き平然を装っていても、このような状況に誰よりもどかしさを感じているのはきっと総司自身。
近藤の役に立つことを生きる上での最たる理由にしている総司にとって、戦えない以上の不幸はないのだ。

想いを理解しているが故に総司を戦場から遠ざけることは辛い。
しかし今無理をさせて総司の身にもしものことがあれば近藤を悲しませることになってしまう。

・・・だがそれは近藤を盾にして自分の行為を正当化しているにすぎない。

総司に無理をしてもらいたくないと思っているのは他ならぬ自分自身、それこそが真の想いだった。

「・・・・・・わかったよ。ったく、ああいえばこう言いやがって。」

盛大にため息を吐くと、土方は畳の上に座り持っていたお盆を総司の前に出す。そこには湯呑みが二つと包みが一つ置かれていた。

「何ですか、これ?」

「団子だ。お前昼飯ほとんど食ってなかっただろ、甘いもんなら少しは入るんじゃねぇかと思ってな。」

「もしかして僕の為にわざわざ買ってきてくれたんですか?」

「いや、期待を裏切るようで悪いが藩邸まで書状を届けに行ったついでだ。」

言いながら土方が包みを開ける、中に入っていたのは餡子がたっぷりと乗った串団子。
総司はそれを見ると思わず笑みを零した。

(・・・これでついでとは、よく言ったものだなぁ。)

どうみてもこれは自分の行きつけの店の物、あの店は藩邸と全く逆の方角にあるのだ。とてもじゃないがついでに買って帰るなど不可能。

回り道をして買ってきたなどと言えば、何をどう茶化されるかわからないと思い、わざと違うと言って話をはぐらかしたのだろう。

「で、食えそうか?」

「えぇ、せっかくですしいただきます。あんまり沢山は食べられないと思いますけどね。」

差し出された団子を受け取り一口齧る。体調不良のことを除いても、近頃隊務が忙しくなったせいで店に行くことすらご無沙汰だった。

久しぶりの好物に顔を綻ばせると、ふいに土方の手がこちらに伸びてくる。

「ちゃんと綺麗に食えよ、付いてんぞ。」

「ふぇ?」

伸びてきた手が口元を軽くさらうと、取り除かれた餡子がそのまま土方の口の中に吸い込まれていく。

「ほんとお前はいつまで経ってもガキみてぇだな。着物の着方だって何回注意してもてだらしねぇままだし、そんな格好してんから風邪なんか引いちまうんだよ。」

「う、うるさいですよ!!別に僕が着物をどう着ようと土方さんには関係ない話じゃないですか!!!」

「そうやってむきになるところがガキだって言ってんだ。」

「っ・・・!!土方さんはどうしていつもいつもそうやって僕のことを子供扱いするんです?!」

「現にお前は俺よりも年下だろうが。」

「だからって一々兄貴面しないでください!!」

どうやら総司は年上ということを理由にあれこれ世話を焼かれるのが気に入らない、所謂『背伸びをしたいお年頃』というやつらしい。
といっても、世話を焼かれること事態は嫌いではなさそうだが・・・。

土方は湯呑みを置くと総司の頭をぽんぽんと叩きながら軽い口調で謝罪の言葉を述べる。

「そうかそうか、そりゃあ悪かったな。」

「むぅ・・・!!そういうのを子供扱いって言うんですよ!!」

大きく口を開け串に刺さっている最後の団子を勢い良く頬張ると、総司は立ち上がり土方に向かってこんなことを口走る。

「いいですよ〜だ!!年下なのが悪いっていうのなら、僕は僕よりも年下の一くんを沢山子供扱いして、沢山世話を焼いてあげるんですから!!!」

宣言するように言い放つと総司は部屋から飛び出して行ってしまった。
総司の後姿を目で追いながら土方は心の中で思う。

(斎藤を子供扱い・・・か、そりゃあ多分一生掛かっても無理だな。)



自室近くまでやってくるとちょうど巡察帰りと思われる斎藤の姿を発見する。すぐさま総司は声を掛けた。

「一くん、一くん!!」

「どうしたのだ総司、そのように息を切らせて。」

「ねぇ、一くん・・・僕に、してもらいたいこととか・・・ない?」

「・・・質問の意味が解りかねるのだが。」

突然そのようなことを問い掛けられても返答に困るという面持ちで斎藤は眉を寄せる。
しかし聞き返しても総司は乱れる息に肩を揺らすばかりで明確な答えをくれない。
このままでは埒が明かないので、とりあえず斎藤は思いつくことを言ってみた。

「剣術の稽古にならば付き合ってもらいたいが、あんたは今体調が万全ではないのだろう?」

「そ・・・そういうことじゃなくてさ・・・・・・。何かもっとこう・・・困ってることとか無いの?」

「困っていること?」

「そうそう。『年上』の力を借りないと出来ないような、そういう困り事。」

「??」

言いたいことは大凡わかったのだが、肝心の質問の意図がまるで理解出来ない。
あからさまに『年上』という部分を強調してくるのも実に妙だった。

「・・・・・・生憎とそのような困り事は持ち合わせていないな。よくはわからぬが、力になれず申し訳ない。」

「そん、なぁ・・・。」

がっくりとうなだれる総司に斎藤は首を傾げる。
結局のところ総司は自分に何を求めていたのだろうか?

「ところで総司、先程から気になっていたのだが・・・」

「え?」

顔を上げるとずいっと斎藤が近づいてくる。そして口元に向かってすっと手を伸ばした。

「口元に餡子が付いている。団子か饅頭かは知らぬが、そのような童のような食べ方は関心しない。」

「なっ?!」

「着物も随分と肌蹴てしまっているではないか、もっとしっかり着込まねばいつまでも風邪が治らぬぞ。冷えは万病の元と言ってだな・・・・・・ん、どうしたのだ?」

「・・・・・・一くんの、一くんの馬鹿ぁ!!!」

うわぁぁぁ!!と声を張り上げながら踵を返して走っていってしまった総司。
心なしか声が涙混じりだったような気がするのは何故だろうか?

きょとんとした表情のまま斎藤は総司が駆けていった廊下を呆然と見詰めるのだった。


そして夕刻・・・庭の隅で一人いじけている総司を土方と斎藤が揃って迎えに行ってやったのは言うまでもない―――。


― fin ―2011.10.13



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