ちっちゃな相棒〜いっしょにごはん篇〜(土沖/幕末/小人パロ)



*拍手御礼小説第十弾
*掲載期間:2012.06.15〜2012.07.17


ぽりぽりぽり―――。

ぽりぽり、ぽり―――。


膳の端にちょこんと座りながら、小さく切り分けられた沢庵を黙々と齧る。

小人の総司に合わせた膳や食器は無いので、こうして土方の膳の上にお邪魔して皆と一緒に食事を摂るのが常となっていた。

同じ釜の飯を食うではないが、二人で一つの料理を分け合って食べていると互いのことをより近しい存在に感じられ、それだけで強い絆が芽生えてくるような心持ちがする。

周囲の幹部達も、小動物のように愛らしい総司の食事風景にただ腹を満たすだけでなく心までほっこりと温められ、一時の癒しを与えられているのだった。

「魚食うか?総司。」

「はい、食べます。」

「ちっと待ってろよ。・・・・・・ほら、まだ温けぇから気をつけて食うんだぞ。」

骨が残らないよう丁寧に身を解し、軽く息を吹きかけ粗熱を飛ばしてから、そっと総司の前に箸を持っていく。
すると総司は、箸先を両手で押さえるようにしながら、美味しそうな匂いを放つそれに目を輝かせ、嬉しそうにぱくりと食いついた。

(((か、可愛い・・・っ!!!)))

各々食事のことなどすっかり忘れ、食い入るように総司を凝視し観察する。

だが当の本人は、そんな熱い視線もまるで意に介さないかの如くさらりと受け流し、もぐもぐと忙しなく口を動かしながら次の魚を土方に催促するのだった。



「なぁ、総司。お前ってさぁ、何でいつも土方さんと一緒にいるんだ?」

朝餉を食べ終え、匙で掬ってもらった茶を飲んでいると、ふと藤堂がこのようなことを口走る。
どういった答えを求めてした問いなのかよくわからず、とりあえず総司は思ったことをそのまま述べてみることにした。

「何で・・・って。そんなの、僕が土方さんの相棒だからに決まってるじゃない。」

「そうじゃねぇって。どうして土方さんじゃなきゃダメなのかってことだよ。」

「おい平助、藪から棒に一体何だってんだ?」

「土方さんは黙っててってば。総司、土方さんじゃなきゃいけない理由っていうのがあるのか?」

やけに食って掛かってくる藤堂に謎は深まるばかりだが、実際のところ土方との関係には何の強制力もない。
自らの意思で共に在ることを選び、今も尚その関係を続けている。ただそれだけのことなのだ。

「・・・別に、ないけど。」

「ってことはさ、相棒が必ずしも土方さんである必要は無いってことだよな!?」

「まぁ、そういうことになるよね。」

「じゃあさ、じゃあさ!!お前今日から俺の相棒にならねぇ!?」

「「「はぁ?」」」

突拍子のない提案に間の抜けた声を漏らしたのは総司だけではなかった。
土方や近藤、広間にいる全員が一様に目を白黒させて首を傾げる。

鳩が豆鉄砲を食らうが如き表情を浮かべ二の句を告げられずにいると、何とか心変わりをさせようと手を変え品を変え、自分の相棒になるよう藤堂が説得をし始めた。

「土方さんみたいな忙しい人が相棒だと中々遊んでもらえないだろ?俺の相棒になったら好きな時に好きなだけ遊んでやるからさ。土方さんの相棒辞めて俺んとこ来いよ。」

「え、でも・・・。」

「平助、一人だけ抜け駆けしてんじゃねぇよ。総司、俺の相棒になるってのはどうだ?お前の好きそうな菓子を売ってる店、沢山知ってるからよ。一緒に食いに行こうぜ。」

「左之さんまで。」

「左之、あんたこそ抜け駆けは許さん。・・・総司、俺のもとへ来るならばいつでも稽古の相手をしてやろう。望むなら、手持ちの石田散薬を全てあんたにやっても構わぬ。」

「一くん。・・・ごめん、気持ちは嬉しいけどあんなインチキ薬いらない。」

「なっ・・・!!」

効能を信じて疑わぬ石田散薬を真っ向から否定されたばかりか、さり気に相棒候補からも蹴落とされ、斎藤は心底落ち込んだようにがくりと項垂れてしまう。

慰めるように肩を叩きながら気遣う源さんの姿も相まって、彼らの一角のみ酷く寒々しい空気に包まれるのだった。



最終的には近藤や永倉、居候の千鶴までもが新しい相棒候補に名乗りを挙げる始末。
食後の小休止が一転、総司を巡る激しい争いの場と化してしまった。

無論、誰よりも困惑したのは選ぶべき総司であり、一瞬たりとも外されぬ期待の眼差しを全身で受けながら、う〜んう〜んと頭を抱えて懸命に答えを導き出そうとする。

「・・・・・・、総司。」

「ふぇっ?」

「お前のしてぇようにすればいい。心の赴くまま、自分の気持ちを素直に言やぁいいんだ。」

「土方、さん・・・。」

中々決めきれなかった最たる理由。
それは土方が、総司を手元に置き続けたいと皆の前で主張してくれなかったことにあった。

他の相棒と組むと決め、何の未練もなく厄介払いのように送り出されてしまったらと思うと、どうしても最後の一声が出せなかったのだ。

土方の本心が知りたい・・・。
阻むものは、ただそれだけだったのだ。

すくっとその場に立ち上がると、心を決めたかのように真っ直ぐ皆を見据える。
深呼吸を一つして気持ちを落ち着け、大きく開いた口ではっきりと言い放った。

「僕は、僕はこのままがいい!!これからもずっと、土方さんと一緒がいいです!!!」

新しい相棒なんて必要ない。
自分にとっての一番の相棒は、土方以外に考えられないのだから。

だから、このままでいいのだ。


後ろに向き直り、頭上の土方の顔を見上げる。
大好きな彼の紫色は柔らかく細められ、口元は優しげに弧を描いていた。

最初っから結果を予想していたというよりも、己の相棒の心をひたすらに信じている。
絶対的な信頼・・・。読み取れたのは、まさにそのような心情だった。

差し出された手の上に乗ると、目線を合わせるように近くまで寄せられていく。
そして、空いている反対側の手の指先がそっと栗毛を撫ぜた。

「本当にいいのか?これを逃したら、俺から離れられる機会なんて二度と来ねぇかもしんねぇぜ?」

「離れたくなんかなりませんからいいんです。土方さんこそいいんですか?」

「皆まで言わなきゃわからねぇか?」

「わかってますけど・・・。でも、ちゃんと言ってほしいです。」


小さなこの身に受け止めきれないような、最高に幸せなその言葉を。

どうか、あなたの言葉で―――。


「これからも・・・いや、死ぬまでずっと俺の傍にいてくれ。総司。」

「・・・っ、はい!!土方さんっ!!」


― fin ―

2012.06.15




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