金平糖日和(土沖/SSL)



*拍手御礼小説第六弾
*掲載期間:2012.02.18〜2012.03.19


来客を告げるチャイムが鳴りドアを開けると、立っていたのは大きな紙袋を抱えた総司だった。

何事かと目を丸くする土方に向かい早く部屋に入れるよう急かし、いそいそと雪崩れ込む様にして室内に上がり込む。
そして、ソファーの前のテーブルに抱えていたそれをどかりと下ろした。

閉じられた口の部分を開けて中を物色する総司に事の仔細を問い質す。

「お前、何をそんなに大事そうに抱えていやがったんだ?」

「ふぇ?」

「『ふぇ?』じゃねぇよ、そりゃ一体何だって訊いてんだ。」

おどけた態度を取る総司に眉を顰めつつ、自分で確認してしまった方が早いかと早々に傍へ寄った。

突っ込んでいた右手を退かして覗き込むと、ぎっしりと詰まっているのは大小様々な袋。
しかも、中身は全て彼の大好物の『あれ』であった。

「ちょっと、勝手に見ないで下さいよ・・・!!」

「総司。」

「な、何です・・・?」

底冷えするような冷めた視線を向けてくる土方に、ほんの少しだけ口ごもる。
頭ごなしに怒鳴りつけられるよりも、今のように流水の如く静かな怒りを帯びている時の方が、遥かに後が恐いのだ。

少なくともこれまで経験した限りでは、よい思い出はただの一つも無かったと記憶している。

「てめぇ、こんな馬鹿みてぇな量の金平糖をどうするつもりだ?まさか全部一人で食う気じゃねぇだろうな?」

「あた・・・、当たり前じゃないですか・・・!!僕が買ったんですから・・・!!」

「ふざけてんじゃねぇ!!糖尿病に罹って早死にしてぇのか!!!」

ぶつりという、堪忍袋の緒の切れる音が聞こえたような気がした。
雷でも落ちたかのように盛大な怒号が響き渡る。

いつも通りの説教ならば全く動じない総司も、さすがに目を瞑って己が肩をびくりと竦めた。

「とにかくこいつは俺が預かる、てめぇに管理させてたらどんな無茶な食い方をしやがるかわかったもんじゃねぇからな!!」

「そんなの酷いです、せっかく色んなお店を回って買い集めてきたのに・・・!!」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!!」

テーブルの上の紙袋を素早く掻っ攫うと、自室に仕舞いに行こうと踵を返す。

しかし総司とて「はいそうですか。」と、大人しく引き下がるような聞き分けの良い子供ではない。
行かせまいと後ろから抱きつき、何とか引き止めようと説得を試みる。

「やめて下さい!!僕の金平糖、返してっ!!」

「駄目だっつってんだろうが!!!」

「嫌ですっ!!嫌ですってば!!」

「ちっ・・・、放せってんだよっ!!!」

「あっ・・・!?」

タイミングが悪かったとしか言いようが無かった。

しがみ付く腕を振り払おうと身を振った土方は、フローリングに足を取られて転びかけた総司を勢い余って飛ばしてしまい、硬い壁板へと思い切り叩きつけてしまったのだ。


慌てて膝を付き、痛みに呻いている総司の身体を抱き起こして背中を擦ってやる。
だが翡翠の瞳には既に大粒の涙が溜まり、うるうるとしきりに揺れていた。

「嫌い・・・。土方さんなんて、大っ嫌い・・・!!!」

ふえぇ・・・!!と幼子よろしく大泣きを始めてしまった愛しい人に、どうしたものかと酷く困惑する。
とにもかくにも泣き止ませることが先決なのだが、謝ろうが宥めようが一向にその気配は無かった。

(・・・ったく、しょうがねぇなぁ。)

最後の手段だと、先刻取り上げた紙袋を徐に開く。
金平糖の詰まった小袋を適当に一つ取り出すと、開封して一粒だけひょいと口に含んだ。

そのまま総司の頬に手を添え、躊躇うことなく己の唇を重ねる。

「ん・・・っ、ぁ・・・はふ・・・っ、ん・・・・・・。」

差し込んだ舌を絡ませながら、口内の熱で溶かすように金平糖をころころと遊ばせる。
砂糖甘さと巧みな口付けの技巧に、いつの間にやら泣くことを止め、もっとしてくれと強請るが如く震える手でもって土方のシャツを僅かに掴んできた。

銀糸を伝わせながら互いの唇を離すと、頬を染めながらとろんとする総司に問い掛ける。

「まだ、嫌いか・・・?」

「ううん・・・、好き。」

猫のように擦り寄ってくるそれを愛しげに抱くと、無言のまま土方は口端に満足げな笑みを湛えるのだった。



「結局どういうことなんだ、この有様は?」

「ひな祭りが近くなると色んな金平糖が店頭に並ぶので、毎年この機会を狙って美味しいのを探してるんですよ。だから、あれは簡単に言うと『味くらべ用』なんです。」

「けどよぉ、所詮は砂糖の塊だろ。味に大きな違いなんてあんのか?」

「わかってないですねぇ、土方さんは。たかが砂糖と言っても大なり小なり味に違いはあるんですよ。例えばこの駄菓子屋さんにあるのなんかは、小さい子でも好みやすいようにいちご味の香料がわざと付けられてるんです。それに比べてこっちは・・・・・・」

(すげぇな・・・。説明を始めた途端、がらりと目の色が変わりやがった。)

「・・・というわけなんですよ。って、ちょっと土方さん!!僕の話ちゃんと聞いてます!!?」

「す、すまねぇ・・・!!」


― fin ―

2012.02.18




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