泡沫絵草子〜序章〜(総司受+沖斎/幕末)



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*序章には特定のCPはありません。



「やられた・・・。」

目を覚ました総司が開口一番に言ったのはそんな言葉だった。

犯人は考えるまでもなくわかる。
自分にこのようなことを仕掛けてくる人物なんて、この屯所内でたった一人だろう。

布団に包まったまま頭を抱えていても仕方が無いと、総司は布団から出て改めて自分の身体を確認する。
鏡越しに映る己の変わり果てた姿に、再び途方に暮れたように口から盛大なため息を漏らした。

背丈は今までの半分よりも頭二つ分ぐらい大きい程度。
栗色の髪は逆に長くなり、高い位置で一括りにしても十分な長さがある。
苦労して鍛えた身体は見る影もなく、細い腕は多少の力でもすぐに折れてしまいそうなほど華奢だ。

今の状態をわかり易く表現するとしたら、恐らく自分が試衛館に預けられた直後くらいだろうか。

見るからに非力そうなこの身体は、どうもあの頃の苦い記憶を思い起こさせる。
心の奥底で蓋をしたそれが疼き始めるようで、総司はぐっと胸を押さえながら不快感に顔を歪めた。



大人の自分が着ていても十分な緩みがあった着物。
それを今の状態の自分が着たらどうなるか、そのようなことは火を見るより明らかだ。

無理やり着込んで引きずりながら歩き回っても特に問題は無いのだろうが、幹部はともかくとして、平隊士達にうっかり見つかりでもすれば、それはそれで厄介なことになる。

これといって良い案も浮かばぬまま、総司は布団の上で一人頭を悩ませていた。


「総司・・・朝餉の支度が出来ているのだが、まだ寝ているのか?」

「一くん?ちょうどいいところに来てくれたね、ちょっと入ってくれないかな。」

総司の呼びかけに対し、斎藤はすぐには動かなかった。
だが無理もないだろう、今の総司の声はいつもよりも格段に高いのだから。
たとえ口調が同じだったとしても、用心深い彼が警戒してしまうのは当然の道理だ。

「警戒しないで平気だよ、入った瞬間いきなり切りかかったりしないから。少し面倒なことになっちゃったから、是非とも一くんの知恵を貸して欲しいんだ。」

「・・・承知した。あんたの言葉を信用しよう。」

すっ・・・と物静かな動作で障子戸が開かれる。
室内に目を向けた斎藤は、目の前に座っている小柄なそれにきょとんと目を丸くした。

「おはよ、一くん。」

「・・・総司?あんたなのか・・・?」

「うん。・・・といっても、こんな形じゃ信じられないのも仕方のないことだよね。」

くりくりとした大きな翡翠を細めながら苦笑いを浮かべる童。
その仕草は、紛うことなく『沖田総司』その人のものだった。



「・・・とにかく、この件は早急に局長や副長に報告すべきだろう。」

「まぁ・・・普通に考えてそうだよね。ここで頭を捻っていても解決策なんか一生見つからないだろうし。」

だらしなく開いてしまう袂を引き寄せながら総司が頷く。
こうしていないと瞬く間に胸元が全開になってしまうのだ。

すると、対面で座っていた斎藤が総司の寝間着の帯に手を伸ばす。
何をされるのかと身構えそうになったが、大人しくしていろと命じられ素直に動きを止めた。

斎藤は帯を解くと、寝間着の前をきちんと合わせてから気持ちきつめにもう一度結び直す。

「急場しのぎでしかないが、この方がまだマシだろう。」

「ありがとう一くん、さっきより全然邪魔じゃなくなったよ。・・・で、どうやって近藤さん達のところまで行こうか?」

「幹部ならばともかく、いらぬ混乱を招かぬ為にも変若水に関する情報を知らぬ隊士との接触は避けるべきだ。この件が何がしかの火種になってしまっては後々厄介だからな。」

広間まで呼びに行きここまで来てもらうという方法もある。
だが、そうすると空気の読めない三馬鹿が野次馬に来てしまう可能性も十分に考えられた。

朝っぱらから幹部総出で屯所内を大移動などしたら、何か事件が起こったのだと察しの良い連中にすぐさま悟られてしまう。
特に日頃からあまり折り合いの良くない伊東一派の耳に入るのはまずい。


思案を続けていた斎藤は、ふと総司の真下にある夜具の敷布に目が行った。

「そうか、これならばいけるかもしれぬな・・・。」

「え?何、一く・・・・・・うわっ!!?」

突然総司の身体が真っ白な敷布の上に転がされる。
起き上がろうとして身を捩る身体を縫い留めるように、斎藤の手が顔を挟んだ両脇に押し付けられた。

深い瑠璃色が困惑する翡翠を真っ直ぐに見つめる。

「こういうことには慣れておらぬ故、多少難儀な思いをさせるかもしれぬが、ほんのしばしの間堪えていてくれ。すぐに済ませる。」

「えっ・・・ちょ、ちょっと!?一くん・・・!!?」




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