悴むその手に温もりを(沖斎/幕末)
夏はあれだけ暑い京の都も、一度季節が冬へと移れば周囲の景色は一変する。
深々と降り積もる雪は全てを真白に包み込み、血の汚れも心の穢れもみな覆い隠して見えなくしてしまう。
寒さから人々は身を寄せ、悴む手の平を白い息交じりに温め合いながら静寂に耳を傾ける。
冬とは、何と不思議な季節なのだろうか―――。
いつも以上に冷え込んだ室内。
布団に包まっていても防ぐことの出来ない冷気にふるりと身を震わせ、総司は重い瞼をゆっくりと開けた。
(朝・・・か・・・。)
障子越しに差し込む朝日から夜明けが過ぎていることを悟る。
昨晩布団に入る前もかなり寒かったが、今はそれ以上ではないだろうか。
起き上がって戸を開けてみると総司はさらに驚愕した。
昨晩までは影も形も無かった雪が庭一面をくまなく覆いつくしていたからだ。
「わぁ・・・凄いなぁ。これ全部、昨日一晩で降ったってことだよね?」
自然の驚異・・・いや、神秘と言うべきだろうか。
たったの一晩で、見慣れた景色をこれほどまでに変えてしまえるとは・・・。
何だか柄にも無く感動を覚えてしまった。
外の様子を見に行ってみようと思い、着替えて自室を後にする総司。
運がよければ中庭の辺りで近藤に出くわすかもしれない。
近藤は新雪の上に足跡を付けて回るのが大好きだからだ。
童のようにはしゃぐ近藤の姿を見るのは心癒されるし、一緒になって遊べば彼も自分の無邪気な姿を見て喜んでくれることだろう。
ならば善は急げと言うものだ。
「・・・残念、今回は当てが外れたかな。近藤さんいないや。」
がらんとした一角を見て、総司が残念そうに眉を寄せる。
さすがにこの時間で起きてないことは無いだろうから、大方土方辺りにでも止められたのだろう。
一人でここにいても仕方がないので、とりあえず自室に戻ろうと踵を返しかける。
すると目の端にふわりと白い何かが映り込み、総司は再びそちらに向き直った。
広い中庭の片隅で小さくなっている黒いもの。
ふわりと風に靡く白い布に、総司はそこにいる者が誰であるのかを察した。
せっせ、せっせ―――。
せっせ、せっせ―――。
気配を殺して近づき、背後からそっと覗き込んでみると、彼の足元には無数の雪の塊。
記憶違いでなければ、これは確か『雪うさぎ』では無かっただろうか。
数は十・・・いや、もっとある。
既に夥しい数の雪の造形を完成させているにも関わらず、彼の手には次なる作品を作る為の新しい雪球が・・・。
一体何の為にこれを作り、どれだけの数を量産するつもりなのだろうか?
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