夢色花火(土沖/SSL)



*『無自覚な感情』と同設定


「こんな小さな神社でも縁日となればやっぱり混むものなんですね、土方さん。」

様々な世代の人間でごった返している境内、ずらりと並ぶ出店に飛び交う楽しげ笑い声。
いつも静寂に包まれているこの場所に年に一度だけやってくる華やかな時間。

「なんですねって・・・ここはお前んちの近所だろうが。何初めて来たみたいな言い方してんだよ?」

「初めてのようなものですよ。覚えてないくらい小さい頃に両親に一度だけ連れて来てもらったのが最初で最後なんですから。」

親に手を引かれながら嬉しそうにはしゃぐ幼い子供達。
切なげに寄せる眉に土方は思わず言葉を詰まらせた。

その反応に総司はふぅっとため息を吐く。

「もしかして余計なこと聞いちゃったなとか思ってます?そういう同情的な感情を向けられるのって、僕凄く不快なんですけど。」

「同情なんざしてねぇよ、勝手に勘違いしてへそ曲げんな。」

「じゃあどうしていきなり黙ったんです?ちゃんと僕が納得出来るように説明してください。」

「・・・・・・ったんだよ。」

「え?声が小さくてよく聞こえないんですけど。」

「う、うるせぇ!!いい加減先に進むぞ!!!」

照れて赤くなる頬を隠すようにずかずかと歩いて行ってしまった土方。
その背中を見ながら総司は嬉しそうにくすっと笑みを零す。

本当に聞こえるか聞こえないかの小さな声だったが、『縁日くらいなら俺がいくらでも連れて行ってやったのに。』という部分だけはしっかりと聞き取れた。

履きなれない下駄で小走りに駆け寄ると総司は土方の着物の袖を掴みきゅっと握る。

歩調を合わせるように土方が歩く速度を落とせば、二人の身体は自然と寄り添うような形になった。



出店が立ち並ぶ一角にやってくると賑やかさがさらに増す。
来る前に夕飯は済ませてあるが、こういう場所でする買い食いはある意味特別だ。

「総司、何か食いたいもんがあったら買ってやんぞ。」

「買い食いしてもいいんですか?」

「いいから言ってんだろ、何素っ頓狂な顔してんだよ。」

「あ、いや・・・土方さんって買い食いを咎めるタイプだと思ってたのでちょっと意外で・・・。」

「お前は俺のことをどういう目で見てんだ。俺だってお前くらいの頃には縁日やら祭りやらであれこれ買い食いしたし、そういうのが醍醐味の一つだってことくらいはわかんだよ。」

土方はこつんと総司の額を小突いた。

「ほら早く言いやがれ、ぐずぐずしてんとこのまま通り過ぎちまうぞ?」

「ま・・・待って!!・・・あれがいいです、あそこのわたあめ!!」

急かされながらきょろきょろと周囲を見回し一件の出店を指差す、そこには大きく『わたあめ』と書かれていた。

強請られた通りにわたあめを一つ購入して渡してやると、総司は嬉しそうに頬張り広がる甘さに目を細め満面の笑みを浮かべた。

「よくもまぁそんな甘ったるいもんを平気な顔で食えるもんだな。」

「土方さんも食べます?」

「いらねぇよ。いつも食ってる金平糖といい、砂糖の過剰摂取で太っちまっても知らねぇからな。」

「心配しなくても部活でちゃんと発散してますから平気ですよ。」

自信たっぷりに断言すると総司はもう一口わたあめを頬張った。



せっかく神社に来ているのだからお参りをして帰るべきだろうと二人はさらに奥へと進んでいく。

他の客も考えることは同じなのか奥に行くにつれて段々と人が増えてきた。

「だいぶ人が増えてきてんな・・・はぐれねぇように手でも繋ぐか。」

「ちょ・・・土方さん?!」

そう言うなり土方は総司の手を取り指を絡ませる。

「ぼけっとしてねぇでお前も握り返せ、これじゃちゃんと繋げねぇだろうが。」

「でも誰かに見られたら・・・」

男同士で手を繋ぐなど周りからしてみればけして気持ちの良い光景ではない。
戸惑うような表情を総司が向けると、土方は優しい声音で安心させるように言った。

「こんだけ人がいるんだ、誰も見ちゃいねぇよ。それよりもはぐれちまわねぇようにしっかり握っとけ。」

「・・・はい。」

ほんのりと頬を染めながら、総司も土方の手にゆっくりと自分の指を絡めた。


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